壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

2023-01-01から1年間の記事一覧

白昼夢の森の少女  恒川光太郎

白昼夢の森の少女 恒川光太郎 角川ホラー文庫 Kindle Unlimited 10年以上前までフォローしていたはずの恒川さんの短編が読み放題になっていました。10年間の単行本未収録の短編集です。さまざまな色合はあれど、どれも著者らしい、ノスタルジックなソフトホ…

火星の人  アンディ・ウィアー

火星の人(上・下) アンディ・ウィアー 小野田和子訳 ハヤカワ文庫SF 電子書籍 これまで読んできた私的【火星】シリーズは、ある程度のテラフォーミングがなされて、人類が火星に居住した時期を描いたものだったが、本書は火星開拓史のごく初期に起きた事件…

対岸の家事  朱野帰子

対岸の家事 朱野帰子 講談社文庫 Kindle Unlimited 自分の意志で専業主婦を選んだ詩穂は、娘と二人の日常に辛さを抱えていた。詩織の隣に住むのはワーキングマザーの礼子。近所の公園で出会ったエリート公務員の中谷は、妻に代わって二年間の育休をとり、家…

神のいない世界の歩き方  リチャード ドーキンス

神のいない世界の歩き方 「科学的思考」入門 リチャード ドーキンス 大田 直子訳 ハヤカワ文庫NF 電子書籍 ドーキンスの15年ほど前の著書『神は妄想である -宗教との決別』のダイジェスト版ともいえる内容でした。第一部ではキリスト教の正典である聖書は、…

誘拐の日 チョン ヘヨン

誘拐の日 チョン ヘヨン 米津篤八訳 ハーパーBOOKS 電子書籍 エンタメ系の韓国ユーモアミステリでした。病気の娘の治療費のために富豪の娘を誘拐した気弱でお人よしの男と、誘拐された11歳の天才少女が次第に心を通わせていくのが読み所でした。殺人事…

別れの色彩  ベルンハルト・シュリンク

別れの色彩 ベルンハルト・シュリンク 松永美穂訳 新潮クレストブックス 電子書籍 人生の黄昏を迎えた頃に、過去の出会いと別れの記憶が甦ってくる。年齢を重ねてから振り返る過去は、当時とは別の色彩を感じさせるのだ。9つの短編がそれぞれに、老境にある…

70歳からは超シンプル調理で「栄養がとれる」食事に変える! 塩野﨑 淳子、 若林 秀隆

70歳からは超シンプル調理で「栄養がとれる」食事に変える! 塩野﨑 淳子、 若林 秀隆 すばる舎 Kindle Unlimited 月980円の読み放題の元を取るために読む。 土井正晴さんの『くらしのための料理学』にある “簡単な料理をゆっくり作って、ゆっくり食べてくだ…

統合失調症の一族  ロバート・コルカー

統合失調症の一族 遺伝か、環境か ロバート・コルカー 柴田裕之訳 早川書房 電子書籍 20世紀半ばから現在までの、12人の兄弟姉妹のうち6人が統合失調症を発症した家族のファミリーヒストリーと統合失調症の研究史を重ねたノンフィクション。 コロラドに住む…

エクソダス症候群  宮内悠介

エクソダス症候群 宮内 悠介 創元SF文庫 電子書籍 「火星シリーズ」の6冊目は初読み作家の作品。また面白いものに出会った。切れのよい文章で、精神医学の歴史と問題点を探りながら、主人公の出生の秘密を追うミステリ仕立てでもある。舞台は未来の火星で…

脳釘怪談  朱雀門 出

脳釘怪談 朱雀門 出 竹書房怪談文庫 Kindle Unlimited 著者のデビュー作『今昔奇怪録』を15年近く前に読みました。ホラーだけれど、読者を怖がらせる意図がない、あまり怖くない怪談でした。『脳釘怪談』はシリーズ7冊で、表紙がおどろおどろしいので敬遠し…

破滅の王  上田早夕里

破滅の王 上田早夕里 双葉文庫 電子書籍 第二次大戦中の上海、満州を舞台にした歴史小説で、生物兵器の開発にかかわる科学者と、それを阻止しようとする者たちの物語だ。 1936年、満州事変から五年後、上海にある上海自然科学研究所に赴任した宮本敏明は、国…

ハイ・ライズ   J・G・バラード

ハイ・ライズ J・G・バラード 村上 博基 訳 創元SF文庫 電子書籍 前冊のマンション繋がりで………タワマン文学というのがあるそうだが、1975年に書かれたバラードの『ハイ・ライズ』は元祖タワマンSF小説だろう。 ロンドン郊外の40階建ての新築高層マンショ…

サハマンション   チョ・ナムジュ

サハマンション チョ・ナムジュ 斎藤真理子訳 筑摩書房 電子書籍 韓国に寄ってみました。フェミニズム小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者、チョ・ナムジュの二冊目は『サハマンション』。 極端な格差社会の中で、ライフラインもおぼつかない、荒廃した…

夢みる葦笛  上田早夕里

夢みる葦笛 上田早夕里 光文社文庫 電子書籍 上田早夕里さんの三冊目は10編の短編集です。広義にはSFですが、音楽、宇宙、怪奇、歴史、人工知能などをテーマとして、思索的な深みもある作品ばかりでした。短編とはいえ、読み始めてすぐに物語の背景世界が浮…

鳥肌が  穂村弘

鳥肌が 穂村弘 PHP文芸文庫 電子書籍 インパクトのある表紙で、「ジャケ買い」しました。電子書籍だってジャケ買いすることはあります。初読みの作家の作品なので、すごく怖いホラー小説だと思い込んでいました。歌人にしてエッセイストの作者にはたくさんの…

モーリス  E・M・フォースター

モーリス E・M・フォースター 加賀山卓朗 訳 光文社古典新訳文庫 電子書籍 フォースターが生前には出版できなかったといういわくつきの本です。『ハワーズ・エンド』『眺めのいい部屋』で主題だった、20世紀初頭のイギリスの中流階級の人間模様という点には…

戻り川心中  連城三紀彦

戻り川心中 連城三紀彦 光文社文庫 電子書籍 五編の短編は「花葬」というシリーズというらしい。「藤の香」「桔梗の宿」「桐の柩」「白蓮の寺」「戻り川心中」の五編には、花が重要なアイテムとして使われている。表題作の『戻り川心中』は名作の評判が高い…

霧に橋を架ける   キジ・ジョンスン

霧に橋を架ける キジ・ジョンスン 三角和代 訳 創元SF文庫 電子書籍 表題作の「霧に橋を架ける」は、ストーリー性があって読みやすかった。 腐食性の霧が流れる巨大な川によって、帝国は分断されていた。吊り橋の設計責任者であるキット・マイネンは、帝国…

三つのおとぎばなし リュドミラ・ウリツカヤ

三つのおとぎばなし リュドミラ・ウリツカヤ スヴェトラーナ・フィリッポワ イラスト 沼野恭子 訳 小学館世界J文学館 Kindle 小学館世界J文学館の中の一冊です。『小学館世界J文学館』という大型絵本(5500円)を買うと、QRコードから125冊の電子書籍が読…

f植物園の巣穴  梨木果歩

f植物園の巣穴 梨木果歩 朝日文庫 電子書籍 K植物園の技官である「私」はf植物園に転任した。ある夜、植物園の大木のうろに落ちて、そこで遭遇する人物や植物や動物と不思議な体験をする。現実なのかさえ明らかではない日常と、夢のような体験と、封印され…

破果   ク ビョンモ

破果 ク ビョンモ 小山内園子 訳 岩波書店 Kindle Unlimited 爪角(チョガク)という名の65歳の女性は、「防疫」という仕事を45年間続けてきた。つまり爪角は凄腕の「殺し屋」として生きてきたのだ。見かけは小柄な老女も実は筋骨たくましく、依頼されて「防…

六畳間のピアノマン  安藤 祐介

六畳間のピアノマン 安藤 祐介 角川文庫 Kindle Unlimited 以前にテレビで少しだけ見たドラマの原作が読み放題になっていた。重いテーマではあったが、俳優たちの演技がよかったのに、どこか違和感があるまま終わってしまったような印象だった。原作を読んで…

魚舟・獣舟  上田 早夕里

魚舟・獣舟 上田 早夕里 光文社文庫 Kindle版 『火星ダーク・バラード』で魅力を知った作者の短編集。SF、ホラー、ミステリ、心理小説などバラエティに富んではいるが、どれもが終末観ただよう世界の中で語られ、硬質なキレのいい文章がその世界をいっそう明…

スター・レッド  萩尾望都

スター・レッド 萩尾望都 小学館文庫 『火星ダーク・バラード』で、火星生まれの超能力を持った少女という設定で思い出した、萩尾望都の『スター・レッド』です。書かれたのは1980年頃だけれど、この文庫本が出版されたのが1995年ですから、たぶん娘が買った…

火星ダーク・バラード  上田早夕里

火星ダーク・バラード 上田早夕里 Kindle版 【火星】をテーマに読むマイブームの復活です。バローズ、ブラウン、クラークと古いSFを読んできたので、四冊目は日本の女性作家の作品です。初読みの作家さん、上田早夕里という名前はなんとなく知っていたけれど…

うめ婆行状記  宇江佐 真理

うめ婆行状記 宇江佐 真理 朝日文庫 電子書籍 大店の商家から武家に嫁いだうめは、義両親をみとり、夫を亡くして子供たちが独立した後、48歳で長男の住む八丁堀の屋敷を出て、独り暮らしを始めた。江戸の時代は不明だが、当時のアラフィフはもう老境になるの…

口入れ屋おふく 昨日みた夢  宇江佐 真理

口入れ屋おふく 昨日みた夢 宇江佐 真理 角川文庫 Kindle Unlimited おふくは五年前に離縁して、実家の口入れ屋に戻ってきた。夫の勇次が店のお金を拐帯して姿を消したためだ。勇次が逃げた理由が分からないおふくは、今も勇次への未練を断ち切れないでいる…

あひる   今村夏子

あひる 今村夏子 角川文庫 Kindle Unlimited 『むらさきのスカートの女』の今村さんの第二作品集。短編が3つ。 「あひる」 「のりたま」という名前のあひるを両親が庭で飼いだした。小学生があひるを見に来るようになって、家はたくさんの子供たちで賑やかに…

ベイカー街の女たちと幽霊少年団  ミシェル・バークビイ

ベイカー街の女たちと幽霊少年団 ミセス・ハドスンとメアリー・ワトスンの事件簿2 ミシェル・バークビイ 駒月 雅子訳 角川文庫 Kindle Unlimited シャーロック・ホームズの公式パスティーシュとして、ミセス・ハドスンが語る『ベイカー街の女たち』の二作目…

シャーロック・ホームズの誤謬  ピエール・バイヤール / バスカヴィル家の犬 コナン・ドイル

シャーロック・ホームズの誤謬 『バスカヴィル家の犬』再考 ピエール・バイヤール 平岡敦 訳 創元ライブラリ Kindle版 バスカヴィル家の犬 【新訳版】 アーサー・コナン・ドイル 深町眞理子訳 創元推理文庫 Kindle版 『アクロイドを殺したのはだれか』で、ク…