六畳間のピアノマン 安藤 祐介
角川文庫 Kindle Unlimited
以前にテレビで少しだけ見たドラマの原作が読み放題になっていた。重いテーマではあったが、俳優たちの演技がよかったのに、どこか違和感があるまま終わってしまったような印象だった。原作を読んで納得した。原作をそのままテレビにするのは難しい。かなり脚色して、パワハラ加害者の描き方を変えたのだろう。
『逃げ出せなかった君へ』という単行本が文庫化で改題したそうだ。六篇からなる連作で、主人公は入れ替わるが、通奏低音として流れるビリー・ジョエルの「ピアノマン」、自殺してしまった夏野が配信していた「六畳間のピアノマン」が、全編をまとめ上げて素晴らしい作品になっている。
ブラック企業に就職し、上司の異常なまでのパワハラを受けて、夏野、大友、村沢の同期三人がどんどん疲弊していく。一人は自ら逃げ出して会社を告発した。一人は逃げ出せなかった。もう一人は会社が潰れてからやっと逃げ出せた。“逃げ出せなかった君”と関わりのある人々のそれぞれの苦しみが各話で語られ、最後に一つの物語に収束して希望に向かっていくような見事な構成だった。
辛い所からは、逃げていいんだよ、逃げなければいけないんだよ! という言葉だけでは、現実問題として、自分だけの努力では逃げられないことが多いと思う。周りの人のたくさんの助けがどうしても必要なんだなあ。それでも、やっぱり、逃げて! と言いたい。