壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

2008-01-01から1年間の記事一覧

老首長の国 ドリス・レッシング と 2008年総括

老首長の国 ドリス・レッシング 青柳伸子訳 作品社 2008年 3800円 今年一番印象に残った作品はイサク・ディネセンの「アフリカの日々」でした。アフリカの自然と暮らしの美しい部分だけを凝縮した、読んだあとに頭の中をさわやかな風が吹き抜けるような小説…

カーヴの隅の本棚 鴻巣友季子

カーヴの隅の本棚 鴻巣友季子 文藝春秋 2008年 1500円 文学とワインを同等に論ずるという知的で上品、かつおしゃれなエッセーです。文学論もワイン論もかなり専門的過ぎて、比喩が理解できなかったものも多々ありました。正直、ワイン論にはあまり興味がもて…

ボクたちクラシックつながり 青柳いづみこ

ボクたちクラシックつながり 青柳いづみこ 文春新書 2008年 730円 ピアニストである筆者が、人気漫画「のだめカンタービレ」」「ピアノの森」「神童」をキーワードにクラシック音楽をひもとくという趣向です。「楽譜通りに弾け」と叫ぶ千秋と楽譜を無視する…

草祭 恒川光太郎

草祭 恒川光太郎新潮社 2008年 1500円 「夜市」 「雷の季節の終わりに」 , 「秋の牢獄」に続く四作目にして、懐かしくて少し怖いという作風はいっそう洗練されてきました。現実世界と重なり合って存在している恒川さんの異世界。気持ちのバランスがふと崩れ…

和算小説の楽しみ 鳴海 風

和算小説の楽しみ 鳴海 風 岩波科学ライブラリー 2008年 1300円 江戸時代には広く庶民にまで親しまれたという和算を題材にした小説が、この頃人気だそうです。この本は、和算そのものの話ではなくて、和算を題材にした時代小説の紹介です。江戸時代の和算は…

家族 山口瞳

家族 山口瞳 文藝春秋 1983年 1500円 「血族」では、母親がひたすら隠していた一族の過去を明らかにして、その母の特異な人物像を描いた著書が、本書で父親の過去に迫っています。この本は刊行されたばかりの頃に読んでいて、父親の過去の部分だけは記憶して…

血族 山口瞳

血族 山口瞳 文春文庫 1982年 610円 「江分利満氏」は読んだことがあり、オジサン小説^^という感じをもったような覚えがあります。本書は1979年に出版され当時ずいぶん話題になった作品でした。もう三十年も前に読んだことになりますが、桜庭一樹読書日記に…

あの薔薇を見てよ  エリザベス・ボウエン

あの薔薇を見てよ エリザベス・ボウエン 太田良子訳 ミネルヴァ書房 2004年 2500円 「りんごのき」に関する小説を集めていてw、めにいさんのところでもう一冊見つけました。 エリザベス・ボウエンは、1899年ダブリン生まれの小説家。アングロアイリッシュの…

ハダカデバネズミ  吉田重人・岡ノ谷一夫

ハダカデバネズミ 女王・兵隊・ふとん係 吉田重人・岡ノ谷一夫 岩波科学ライブラリー 2008年 1500円 「クマムシ!」に続くおもしろ生物は「ハダカデバネズミ」。この本の表紙には鼻先の写真しかありませんが、「ハダカデバネズミ」で画像検索すればその全身…

赤朽葉家の伝説 桜庭一樹

赤朽葉家の伝説 桜庭一樹 東京創元社 2006年 1700円 先日、家族史や年代記が好きなことを再認識したので、日本の小説も思い出してみました。藤村の「夜明け前」、北杜夫「楡家の人々」、山口瞳「血族」など・・・どれも昔に読んだものです。「血族」は「桜庭…

狂気の王国 フリードリヒ・グラウザー

狂気の王国 フリードリヒ・グラウザー 種村季弘訳 作品社 1998年 2400円 フリードリヒ・グラウザーの、五つの長編の第四作品目です。1930年代のスイス。院長と患者が失踪した精神病院を舞台にシュトゥーダー刑事が事件を解決します。といっても、途中、第二…

〈眠り病〉は眠らない  山内一也 北潔

〈眠り病〉は眠らない 日本発!アフリカを救う新薬 山内一也 北潔 岩波科学ライブラリー 2008年 1200円 世界中に常時30万人の患者がいる感染症の特効薬があるとしたら、製薬会社は大きなビジネスチャンスと考えるはずなのに、研究開発がほとんど行われず新薬…

扉のむこうの物語 岡田淳

扉のむこうの物語 岡田淳 理論社 2005年 1600円 子供の日常から異世界に通じる扉は、小学校の倉庫にありました。1988年に赤い鳥文学賞を受賞した作品ですが、最近になって復刊されていました。挿絵も小学校の図工の先生だったという著者の手によります。 小…

秋の牢獄 恒川光太郎

秋の牢獄 恒川光太郎 角川書店 2007年 1400円 「夜市」 「雷の季節の終わりに」 につづく三作目です。前作同様、異界に迷い込みとらわれてしまった者たちの物語。閉ざされた牢獄である異世界にいつの間にか愛着を覚え、日常に戻ることをためらってしまう。異…

破局 ダフネ・デュ・モーリア

破局 ダフネ・デュ・モーリア 吉田誠一訳 早川書房 異色作家短編集10 2006年 2000円 1964年に刊行されたものの復刊です。昨日読んだ短編集「鳥」に収められた作品群ほどのバラエティーはないのですが、原題の「The Breaking Point」が表すように、物語がある…

鳥 ダフネ・デュ・モーリア

鳥 ダフネ・デュ・モーリア 務台夏子訳 創元推理文庫 2000年 980円 むかしむかし「レベッカ」は読みましたが、ヒッチコック映画「鳥」の原作がデュ・モーリアの短編だったことをうかつにも知りませんでした。「桜庭一樹読書日記」で見つけて、どうしても読み…

メチル水銀を水俣湾に流す 入口紀男

メチル水銀を水俣湾に流す 入口紀男 日本評論社 2008年 1900円 「水俣病の科学」では、水俣病発生から半世紀以上たって初めて、アセトアルデヒド製造過程で副次的に生じたメチル水銀が水俣病の原因であることを科学的に証明した事が書かれていました。そこに…

時のかさなり ナンシー・ヒューストン

時のかさなり ナンシー・ヒューストン 横川晶子訳 新潮クレストブックス 2008年 2300円 家族史もしくは一族の物語は、クレストブックスにたくさん収録されています。大河小説のようなゴーシュの「ガラスの宮殿」や半自伝的なマンローの「林檎の木の下で」の…

モンテ・フェルモの丘の家 ナタリア・ギンズブルグ

モンテ・フェルモの丘の家 ナタリア・ギンズブルグ 須賀敦子訳 河出書房新社 世界文学全集I-12 2008年 2800円 「ある家族の会話」では幸せな家族が時代の波に翻弄される姿が描かれていましたが、ギンズブルグ最後の小説「モンテ・フェルモの丘の家」では家族…

アルトゥーロの島 エルサ・モランテ

アルトゥーロの島 エルサ・モランテ 中山エツコ訳 河出書房新社 世界文学全集I-12 2008年 2800円 四十年ほど前に「禁じられた恋の島」という邦題で翻訳されていたそうです。そういえば、河出のグリーン版世界文学全集で見かけたことがありますが、学校の図書…

山羊の島の幽霊 ピーター・ラフトス

山羊の島の幽霊 ピーター・ラフトス 甲斐理恵子訳 ランダムハウス講談社 2008年 1800円 なかなか死ねない僕と、ある幽霊の復讐の旅が始まった。死せる本の墓場に、地下に棲む怪物、血に飢えた図書館-奇妙な世界に迷い込んだ男の運命を描く、傑作ゴシック・ユ…

桜庭一樹読書日記

桜庭一樹読書日記 東京創元社 少年になり、本を買うのだ。2007年 1500円 書店はタイムマシーン 2008年 1600円 未読の作家の作品をどれから読むかに迷うことがあります。そんな時はまずエッセーのような軽いものに手を出してみます。 第二作(書店はタイムマ…

Google Earthでみる地球の歴史 後藤和久

Google Earthでみる地球の歴史 後藤和久 岩波科学ライブラリー 2008年 1500円 もちろん図書館で借りたのですが、ちょっとワイドな新書版でたった100ページの本が1500円というお値段。でもオールカラーで、ネット環境にあればさらに充分楽しめる本です。先史…

クロック商会 フリードリヒ・グラウザー

クロック商会 フリードリヒ・グラウザー 種村季弘訳 作品社 1999年 2000円 「老魔法使い」で知ったシュトゥーダー刑事のシリーズ。五編の長編の、第四作に当たります。「老魔法使い」にあった二つの長編とは雰囲気が異なり、少し軽めです。 1920―30年代でし…

名画で読み解くハプスブルク家12の物語 中野京子

名画で読み解くハプスブルク家12の物語 中野京子 光文社新書 2008年 980円 650年にわたるハプスブルグ王朝の歴史を12枚の絵で紹介するというのでかなり駆け足ですが、 中野さんの簡潔明瞭にしてしかもドラマチックな語りで、今回もまた楽しませていただきま…

幕末裏返史 清水義範

幕末裏返史 清水義範 集英社 2008年 1700円 時代小説を読むつもりで、こんなのを借りてしまいました。’’’もしも~だったら’’’という架空の幕末史です。 嘉永六年(1853年)、日本びいきのフランス人アナトール・シオンが出島にやってきました。二十代半ばの…

河岸 ものと人間の文化史139 川名登

河岸 ものと人間の文化史139 川名登 法政大学出版局 2007年 2800円 「江戸に和む」で知った江戸時代の利根川水運に興味を持ちました。利根川東遷や、江戸時代に年貢米など運輸が盛んだったころ、山本周五郎の「青べか物語」にあるような利根川水系の水運が衰…

雪沼とその周辺 堀江敏幸

雪沼とその周辺 堀江敏幸 新潮社 2003年 1400円 「いつか王子駅で」でノスタルジーをかきたてられて以来、同様のものを求めてこの作家の作品を読んでいるのですが、あれは『都電』に対する個人的な思い入れに由来するものだったのかもしれません。 一つ一つ…

マーブル・アーチの風 コニー・ウィリス

マーブル・アーチの風 コニー・ウィリス 大森望 編訳 早川書房プラチナファンタジー 2008年 2000円 短編集「最後のウィネベーゴ」では”月経小説”を読んで抱腹絶倒しました。しかし、コニー・ウィリスの長編は長くて長くて、いまだ手が出せずにいます。本書は…

象と耳鳴り 恩田陸

象と耳鳴り 恩田陸 祥伝社 1999年 1700円 恩田さんの初期の短編集です。退職判事の関根多佳雄が安楽椅子探偵役をつとめます。あれっ、この関根多佳雄は、「六番目の小夜子」に出てきた関根秋の父ではないのかしら!ということは関根春と関根夏は秋のきょうだ…