壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

モーリス  E・M・フォースター

モーリス  E・M・フォースター

加賀山卓朗 訳  光文社古典新訳文庫 電子書籍

フォースターが生前には出版できなかったといういわくつきの本です。『ハワーズ・エンド』『眺めのいい部屋』で主題だった、20世紀初頭のイギリスの中流階級の人間模様という点には共通するものがありますが、「モーリス」は、最期まで一般には公表されなかったフォースター自身の同性愛を描いた小説という特異な面を持っています。

今でこそ、BL小説は流行りのジャンルですが、イギリスでは1960年代の終わりごろにやっと同性愛が合法化されたそうです。20世紀の半ばまで、イギリスでは同性愛によって逮捕されたり、ホルモン治療を受けさせられたりしていたというのは有名な話です。1970年に91歳でフォースターが亡くなった後にやっと出版されたという事です。

モーリスという14歳の少年が、パブリックスクールを経てケンブリッジに入学して、クライブという友人(恋人)に出会い、社会的な規範との板挟みに苦しみながら成長していく物語でもあります。最後にはクライブの家で働く森番のアレックに出会い、ハッピーエンドを匂わせて終わります。

書かれた当時の状況では、現実にはハッピーエンドはありえないわけで、フォースターはあえてこの結末を選んだとあとがきにありました。(森番といえば、D・H・ロレンスのあの「森番」を連想しますが、巻末の著者あとがきには、ロレンスよりも先に書かれているそうです。)

古めかしい文体は上品であからさまな描写はなく、言い淀んで明確には書かれないことが多いので、少々読み辛くて(BLも苦手だし)途中挫折しそうになりました。50%ポイント還元に釣られて読み始めた本を読み飽きて、映画の存在を知り、とても分かりやすい映画を見てから、本も無事読み終わりました。

アマプラチャンネルで、30年以上前に製作された映画のリバイバル版(4Kデジタル修復版「モーリス」無修正版。モザイクかかっていないやつです。)『眺めのいい部屋』で、森の中での男たちの水浴の場面は、そういう意味合いがあったのかと合点がいきました。