壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

対岸の家事  朱野帰子

対岸の家事  朱野帰子

講談社文庫  Kindle Unlimited

自分の意志で専業主婦を選んだ詩穂は、娘と二人の日常に辛さを抱えていた。詩織の隣に住むのはワーキングマザーの礼子。近所の公園で出会ったエリート公務員の中谷は、妻に代わって二年間の育休をとり、家事と育児をこなしている。夫の小児科医院を手伝う元保育士の晶子には子供がまだできない。ベテラン専業主婦の坂上さんは70歳で一人暮らし。それぞれ状況も立場も違うけれど、それぞれに悩みがあり、追いつめられて限界を感じている。

各章が異なった登場人物の視点で描かれ、それぞれの人物の視点で同じシーンを語り直すことで、多様な視点が与えられ、意外性があるので面白かったし、読みやすかった。専業主婦と働く母親、母親と父親、女性と男性、若者と高齢者がそれぞれの立場を尊重してわかり合い、互いに協力していく様子が好ましい。

 

40年前、私が育児をしていた時代は専業主婦の方が圧倒的に多かった。私は兼業主婦だったけれど、幼い子を抱えてエレベーターのない五階の狭いアパートに住んでいた時の閉塞感を思い出した。あの頃はまだ子供の多い時代だったから近所との交流もあり、助けられた部分もあったけれど、反対に「三歳児神話」を持ち出されて、保育園に預けていることを非難されているような気がしてすごく辛かったことも思い出した。今は逆転して、専業主婦であることを責められる時代になっているんだなあ。時代の趨勢は変化しても、それぞれの事情や立場があって、どちらが正しいというようなことではないはずだ。互いに尊重できるといいのにね。

1970年に出版された『家事整理学のすべて』(梅棹忠夫他共著)は、如何に家事を簡略化するかという思想を盛り込んだ面白い本だった。もう処分してしまったのが惜しかった。今でこそ、家事は手抜きでいいというのがトレンドだけど、やっぱり女が家事をするのが前提になっているような気がする。現在の私は一人暮らしで、掃除・洗濯・炊事・家計管理は自分の世話と同じだから、取り立てて家事とも思わない。家事は家族のためにするものなのだろうか。