壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

戻り川心中  連城三紀彦

戻り川心中  連城三紀彦

光文社文庫  電子書籍

五編の短編は「花葬」というシリーズというらしい。「藤の香」「桔梗の宿」「桐の柩」「白蓮の寺」「戻り川心中」の五編には、花が重要なアイテムとして使われている。表題作の『戻り川心中』は名作の評判が高いと聞いた。

五編とも、男女の濃密な愛憎関係が題材になったミステリだ。時は大正から昭和の初めにかけて、起きた事件の経緯が美しい文体で、情感たっぷりにウエットに描かれる。その耽美な世界に魅了されているうちに、その世界が一気にひっくり返されて、唖然とする。犯行に至った動機が全く別の物だったのだ。物語を読み進む間にすっかりそれと思い込んでいたものが、最後に覆されるというのはミステリの常套手段だが、このような秀麗な文体と最後のどんでん返しのミスマッチが、とても面白かった。ミステリとして構えながら読むと、最後の意外性が損なわれるので、謎解きを忘れて読んだ方がいいかもしれない。

 

『隠れ菊』というテレビドラマを見たことがあったが、連城の原作は読んでいない。男女のドロドロ愛憎劇は苦手だが、50%ポイント還元に釣られた。連城作品で今までに唯一読んだのが『黄昏のベルリン』。六年前の読書メーターに「東西ドイツの時代のミステリというかエスピオナージというか,題材はありきたりかもしれないが,筆運びがとても巧みで引きつけられた。」と自分でメモしてあるのに、内容を完全に忘れている。電子書籍を買ってあったのに、思い出せない。でも再読はしないでおこう。どんどん忘れるのできりがない。

 

歳をとると、どんどん忘れる。

私の父は読書家で、90歳を超えても毎日読書していた。最後の頃は東野圭吾の大ファンになって、父が新刊を買って読み終えると、いつも私にくれる。 単行本『マスカレード・ホテル』は私が貰ったのに、もう一冊買ってあった。さすがに同じ本だったと気が付いたのだろう、本棚に隠してあった。亡くなった後、さらに文庫版の『マスカレード・ホテル』を父の書棚で見つけた。

本の内容は忘れてもいいが、同じ本を買わないようにしたい。電子書籍の場合は「お客様はこの商品を○年○月○日に購入しました。」と教えてくれるので助かる。