壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

白昼夢の森の少女  恒川光太郎

白昼夢の森の少女  恒川光太郎

角川ホラー文庫   Kindle Unlimited

10年以上前までフォローしていたはずの恒川さんの短編が読み放題になっていました。10年間の単行本未収録の短編集です。さまざまな色合はあれど、どれも著者らしい、ノスタルジックなソフトホラーです。日常の隣にある異界に囚われてしまった者たちの哀しみが描かれています。目の前に鮮やかな映像を浮かび上がらせる描写が巧みで、夢中で読んでしまいました。恒川さんには、常人とは違うものが見えているのでしょうね。★が印象的でした。

 

★「古入道きたりて」:山深い渓谷釣りの最中に雨に降り込められ、辿り着いた古い家で見たのは、山を一またぎするような巨人だった。その家で老婆にふるまわれたぼた餅の思い出を語るのは、ジャングルの洞窟に身を隠した二等兵。幻想と現実のあわいが戦争をはさんだ長い時間の中で語られる。

焼け野原コンティニュー」:記憶を亡くしたまま、焼け野原で目覚め、途方に暮れる男。自分が誰なのか、何が起きたのか分からないまま、無常と希望に揺らぐ。

★「白昼夢の森の少女」:町を覆い尽くした蔦植物に捕らえられてしまった人々(緑人たち)は、感覚を共有し、共有夢を作り上げている。

★「銀の船」:現実から逃げるようにして空を飛ぶ巨大な舟に乗り込んだ少女。時空を超えて世界中から来た乗客は、退屈だが、平和に老いもせずに、非現実な空間で永遠に暮している。唯一この船から降りる方法は残酷だ。

海辺の別荘で」:海からカヤックでやってきた少女は椰子の実の化身。

オレンジボール」:毬に変身した少年の体験。

傀儡の路地」:見知らぬ街をあてもなく散歩する男は、何かに操られている。

平成最後のおとしあな」:趣味の探偵ごっこが高じて、入り込んだ建物の地下室で…。

布団窟」:見知らぬ家の布団部屋で怖い目にあったという、実話系怪談。

★「夕闇地蔵」:冥穴堂の千体地蔵のところに捨てられ、特殊な視力を持つ地蔵助は向かいに住む二歳上の冬次郎を兄のように慕っていた。冬次郎の妹が病で亡くなり、冬次郎は異常をきたす。

ある春の目隠し」:古い友人たちとの別れが、不思議な話と共に語られている。

 

今まで6冊の恒川作品を読みましたが、その中でも『夜市』と『草祭』が好きでした。未読の中では『黄金機械』が読みたい。ここに書いておかないと忘れそう。書いておいても忘れそうだけど。