壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ハイ・ライズ   J・G・バラード

ハイ・ライズ   J・G・バラード

村上 博基 訳  創元SF文庫 電子書籍

前冊のマンション繋がりで………タワマン文学というのがあるそうだが、1975年に書かれたバラードの『ハイ・ライズ』は元祖タワマンSF小説だろう。

ロンドン郊外の40階建ての新築高層マンションには1000世帯2000人が住んでいる。スーパーマーケットなどの商業施設、銀行や学校、プールまで備わったテクノロジーの粋を集めた高層マンションで、その建物の中だけで充足した生活ができる。高層階には富裕層が住み、下層階には子育て世代が多い。

ある事件をきっかけにくすぶっていた階層間の対立があらわになった。さらに停電が起きてライフラインが途絶え、ダストシュートが詰まってゴミだらけなり、ベランダからゴミを捨てるようになる。マンションの荒廃と共に住民たちの道徳心も低下し、階層ごとにグループ化して、エレベーターを占拠し、階段にバリケードを作って嫌がらせをし、暴力行為に発展していく。

しかしながら、マンションの住民たちは、外部に助けを求めない。事故死や殺人が起きても警察を遠ざけるのだ。逃げ出す住民も多いが、マンションでの生活を捨てられずに最後まで留まった者たちは、無常観さえ漂う荒れ果てた日常の中で、原始的な生活に退行して、むき出しになった欲望のままに生きていく。

 

SF設定なのでシニカルに、かつブラックに描かれているが、現代の乱立するタワマンの未来像を象徴するような小説が50年も前に書かれていたことに驚く。この先、日本の人口がどんどん減ってくれば、タワマンに限らず、低層階のアパート、住宅地でも空き部屋や空き家が増えて、治安も悪くなってくるかもしれない。その前に大きな地震が来るのか。そうすれば、ライフラインも途絶えて…。いや、その前に自分の寿命が…。

 

イギリスのSF作家 J・G・バラードは、1930年に上海に生まれた。少年時代、第二次世界大戦中に日本軍の捕虜収容所で暮らした経験をもとにした『太陽の帝国』がある。いつか読みたいと思っているが、未だ果たせていない。

まずは上海に戻って、そこを舞台にした歴史改変小説から読もう。