陽の光が消えた町で ナオミ・クリッツァー
桐谷知未訳 早川書房 図書館本

あまり尖がっていないSFが読みたくて、図書館に予約してあった本。いくつもの賞を受賞した作品が入っている日本オリジナル短編集だという。コージーSFとでもいおうか、ポジティヴな読後感だ。どれも女性視点なので、いっそう読みやすい。ナオミ・クリッツァーの世界は善意でできているみたい。
「小さな図書館の司書さまへ」Little Free Library:個人的に無料図書ボックスを庭先に置いて、本の貸出を始めたメイガン。借りた本の代わりに、不思議な品物が置かれるようになり、手紙のやり取りが始まるが…。貸し出す本の題名と、お礼のアイテムの組み合わせで、想像が大きくふくらむ。ファンタジーの異世界に繋がっちゃった?
♪♪ いいなあ! Book○FFに持って行くより、楽しそう!
「陽の光が消えた町で」The Year Without Sunshine:何かの災害で大気中の塵が太陽光を遮った。電力供給が不安定で、物資や食糧調達が困難になり始めた町。近所の人たちが互いに協力して、助け合う。病気の老婦人に酸素を供給するため、皆で自転車を漕いで発電している。善意が善意を呼んで…。
♪♪ レベッカ・ソルニットの『災害ユートピア』のようだ。災害が予想されるリアルな未来にも、小さなコミュニティの、善意で成り立つ助け合いが存在することを信じたい。
「怪物」Monster:アンドルーは、セシリーの高校時代の無二の親友だった。遺伝子工学の研究者となったセシリーは、自分の研究を盗んで人体強化薬を製造し、違法な人体実験をしたアンドルーを中国まで追いかける。そして怪物となった親友を…。
♪♪ 間に挟まる高校時代の回想は、切なく哀しい語りの青春グラフィティー。
「報酬は猫の写真で」Cat Pictures Please:猫好きのAIが、猫写真をたくさんアップしている人たちに好意を持ち、その人の困りごとをひそかに解決したいと思う。気づかれないように検索結果を偏向させ、ポップアップ広告を工夫して人生に介入する。人間の手助けをしたいという善意のAIなのだ。
♪♪ たしかにナオミ・クリッツァーの世界は善意でできている。「地獄への道は善意で舗装されている」ともいうが、ナオミ・クリッツァーは地獄への道を選ばない。地獄じゃない方へ舵をきる。
「海を見渡す四姉妹」Four Sisters Overlooking the Sea:夫の一年間の調査研究のために、モーガンは海辺の町に家族と引っ越してきた。かつて同じような環境分野の研究者だったモーガンだが、データ紛失もあって自分の研究をやむを得ず手放したことをずっと後悔していた。海辺で研究対象のアザラシと再会し、モーガンはアザラシの本を書くと決意する。しかし利己的で自己中な夫は彼女の研究への思いを一顧だにしない。町に伝わる伝説と女たちの連携が重なり合って…。
♪♪ 幻想風だが、予想される結末。モーガンに共感しすぎて胸のどこかに痛みを覚える。
「アルゴリズムでよりよい生活を」 Better Living Through Algorithms:評判のいいアプリのインストールを上司に強く勧められた。生活を向上させるアプリは、個人情報を取得して的確なアドヴァイスを送ってくる。アプリを通じてコミュニティにも参加した。でもだんだんに悪評が立ってアプリを使わなくなったが、そのあとも人々は好い生活習慣を保っているようだ。
♪♪ 人間が生きていくうえで、リアルなコミュニティーを持っていることが重要という主張のようだ。引きこもり気味の私は耳が痛いなあ。