壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

美土里倶楽部  村田喜代子

美土里倶楽部  村田喜代子

中央公論新社  図書館本

夫を亡くした70代の美土里は、同じ境遇の二人の女性と知り合い、夫の不在を受け入れていく。パソコン教室で、俳句の会で、喫茶店で、おはなし教室で、山奥の殯の風習の中で、平安時代の地獄絵図を見ながら、ムンクの「太陽」を眺めながら…。 三人はそれぞれに自分のやり方で死生観を作り上げていくようだ。

 

私は夫を亡くして二十年近くになった。読んでいると、当時の忘れかけていた記憶や思いが押し寄せてきた。もう泣いたりはしないが、胸が苦しくなる。あの一年の記憶ははっきりしない。そういえば、美土里さんと同じく、私も足を骨折したっけ。でも、こんな風に毎日をすごしながら、それまでとは異なる日常を受け入れていったのかなとおもう。心がざわついているので、感想は短め。

 

それにしても、村田喜代子のおばあさんたちは魅力的だ。今まで読んだのは、『蕨野行』、『エリザベスの友達』、『飛族』、どれもばあさんたちの話だった。未読の『姉の島』も、ばあさん?

陽の光が消えた町で ナオミ・クリッツァー

陽の光が消えた町で ナオミ・クリッツァー

桐谷知未訳 早川書房 図書館本

あまり尖がっていないSFが読みたくて、図書館に予約してあった本。いくつもの賞を受賞した作品が入っている日本オリジナル短編集だという。コージーSFとでもいおうか、ポジティヴな読後感だ。どれも女性視点なので、いっそう読みやすい。ナオミ・クリッツァーの世界は善意でできているみたい。

「小さな図書館の司書さまへ」Little Free Library:個人的に無料図書ボックスを庭先に置いて、本の貸出を始めたメイガン。借りた本の代わりに、不思議な品物が置かれるようになり、手紙のやり取りが始まるが…。貸し出す本の題名と、お礼のアイテムの組み合わせで、想像が大きくふくらむ。ファンタジーの異世界に繋がっちゃった? 
♪♪ いいなあ! Book○FFに持って行くより、楽しそう!

「陽の光が消えた町で」The Year Without Sunshine:何かの災害で大気中の塵が太陽光を遮った。電力供給が不安定で、物資や食糧調達が困難になり始めた町。近所の人たちが互いに協力して、助け合う。病気の老婦人に酸素を供給するため、皆で自転車を漕いで発電している。善意が善意を呼んで…。
♪♪ レベッカ・ソルニットの『災害ユートピア』のようだ。災害が予想されるリアルな未来にも、小さなコミュニティの、善意で成り立つ助け合いが存在することを信じたい。

「怪物」Monster:アンドルーは、セシリーの高校時代の無二の親友だった。遺伝子工学の研究者となったセシリーは、自分の研究を盗んで人体強化薬を製造し、違法な人体実験をしたアンドルーを中国まで追いかける。そして怪物となった親友を…。
♪♪ 間に挟まる高校時代の回想は、切なく哀しい語りの青春グラフィティー。

「報酬は猫の写真で」Cat Pictures Please:猫好きのAIが、猫写真をたくさんアップしている人たちに好意を持ち、その人の困りごとをひそかに解決したいと思う。気づかれないように検索結果を偏向させ、ポップアップ広告を工夫して人生に介入する。人間の手助けをしたいという善意のAIなのだ。
♪♪ たしかにナオミ・クリッツァーの世界は善意でできている。「地獄への道は善意で舗装されている」ともいうが、ナオミ・クリッツァーは地獄への道を選ばない。地獄じゃない方へ舵をきる。

「海を見渡す四姉妹」Four Sisters Overlooking the Sea:夫の一年間の調査研究のために、モーガンは海辺の町に家族と引っ越してきた。かつて同じような環境分野の研究者だったモーガンだが、データ紛失もあって自分の研究をやむを得ず手放したことをずっと後悔していた。海辺で研究対象のアザラシと再会し、モーガンはアザラシの本を書くと決意する。しかし利己的で自己中な夫は彼女の研究への思いを一顧だにしない。町に伝わる伝説と女たちの連携が重なり合って…。
♪♪ 幻想風だが、予想される結末。モーガンに共感しすぎて胸のどこかに痛みを覚える。

「アルゴリズムでよりよい生活を」 Better Living Through Algorithms:評判のいいアプリのインストールを上司に強く勧められた。生活を向上させるアプリは、個人情報を取得して的確なアドヴァイスを送ってくる。アプリを通じてコミュニティにも参加した。でもだんだんに悪評が立ってアプリを使わなくなったが、そのあとも人々は好い生活習慣を保っているようだ。
♪♪ 人間が生きていくうえで、リアルなコミュニティーを持っていることが重要という主張のようだ。引きこもり気味の私は耳が痛いなあ。










時計職人の娘 ケイト・モートン

時計職人の娘(上/下) ケイト・モートン

務台夏子訳 東京創元社 図書館本

物語の舞台となるのは、テムズ川上流域にある古い屋敷「バーチウッド領主館」だ。ケイト・モートンの”館もの”『リヴァトン館』『湖畔荘』と同じく、物語の時間軸が錯綜し、緻密な伏線が埋め込まれている。そして登場人物たちは、あえて真実を語らない。社会的制約のため、だれかを庇うため、自分の罪悪感のため、言いたくても言えない秘密を抱えていて、じれったくて堪らない! 読みやすいとは言えないが、読むにつれてジワジワと明かされていく謎に惹かれた。知りたくて知りたくて、上下巻で650㌻超えを三日で読み切った。

 

150年もの間秘密を抱え続けた館で、様々な時代を生きた人々の視点と記憶が重なり合って紡がれていく物語だ。一番新しい視点は、ある会社で文書保管係として働くエロディーのもの。2017年、彼女は古い保管箱の中に、革製の肩掛け鞄、スケッチブックと写真を見つけた。
そこから辿り着いたのは、1862年の夏に「バーチウッド領主館」で起きた強盗殺人事件だった。ひとりの女性が亡くなり、もうひとりは行方不明のままで、家宝のダイヤモンドが失われた。本当は何があったのだろうか。

事件は19世紀後半に起きているので神秘主義的な雰囲気ではあるが、ホラーではない。無関係と思っていた登場人物同士の関係が突然明らかにされて、ジグソーのピースが嵌まったような驚きがある。でも探偵が謎を解くミステリーでもない。まさにゴシックロマンだ。謎が解かれたにしても、「時計職人の娘」の悲哀と諦念が心に残り、ミステリの開放的なカタルシスは得られないが、深い余韻に浸っている。

 

図書館に返却したらすぐに忘れてしまうと思うので、登場人物の名前や年代ごとのあらすじを書いておきたいところだが、フルネームや人物紹介がネタバレになってしまうのでやめておく。テムズ河畔の風景も魅力的だった。ダイアン・セッターフィールドの『テムズ川の娘』を思い出した。

 

ケイト・モートンの既翻訳本で未読なのは、『忘れられた花園』『秘密』。どちらも積読本だが、今すぐに読む気になれない。もうすこしだけ寝かせておこう。

つきよのたまご  なかがわちひろ

つきよのたまご ちいさなぽぽろのものがたり
なかがわちひろ 文 さとうゆうすけ 絵 ビーエル出版

森にすむ小さな人たちの物語。小さな人たちは、家族といえども多様な形をしている。ふさふさしたしっぽ、昆虫のような羽根、松ぼっくりのような髪の毛…。
みんな違って、みんないい。 月夜のばんに、たまごから生まれてくる妹はどんなこなのだろう。 
かわいいおとぎ話だが、自然との共生や、ダイバーシティ&インクルージョンというようなことも、美しい絵の中に自然に溶け込んでいる。

連休中に泊まりに来る四歳の孫息子のために、移動図書館で、以下の絵本を五冊借りてきた。なるべくいろんな本を選んだ。

電車大好きの腕白坊主なので、『ミニカーたんけんたい』がお気に召すかしら、と思っていたが、案に相違して、この『つきよのたまご』が一番のお気に入りとなった。夜寝る前に読み聞かせる本として、孫が選ぶのは毎晩この本。30ページばかりの絵本だが、最後のページをめくる前に寝息をたてていた。
幼児であっても、こういう世界にちゃんと安心する何かを感じ取っているのかもしれない。

天駆せよ法勝寺  八島游舷

天駆せよ法勝寺  八島游舷

創元SF短編賞受賞作  電子書籍

初めにAudibleで聴き始めたが、何のことやら分からない。電子書籍でテキストを見て納得した。仏教用語を思わせる独特な漢字表現、造語とルビによる重層的な情報量に圧倒された。活字中毒者にとっては、たまらない魅力だ。これって、酉島伝法の『皆勤の徒』と同じ匂いがする!

 

300メートルを超える巨大な九重塔である法勝寺は、七人の僧侶をクルーとして、30光年以上離れた星での大仏開帳に参加するために発進した。
仏教の教義(佛理学)に則り特殊な航法を使うので、どんな星へも四十九日で到達できる。駆動方法は読経とマニ車、船外活動には装佛というパワースーツを纏う。
途中、航行を邪魔する偽佛と戦いながら、目的の星へたどり着くのだが…。

 

一部引用

”佛理学。それは、万物を構成する佛質〈ぶっしつ〉と佛精〈エネルギー〉を相互転換する手法を研究する学術分野である。佛の教えの七割は佛理学として理論化され、再構築された。涅槃経に一切衆生悉有佛性と説く。佛理学では、この概念を拡張し、衆生のみならずあらゆる佛質に佛性があり、佛精と等価であることが宇宙の根本原理であるとする。”(8ページ)

という部分は、E=mc² ってことのようだ。

 

佛教パンクのスペースオペラ。奇想天外な世界で、わけがわからないかとも思うが、なぜか筋の通った話でもあり、笑えてすごく楽しめた。この世界観を気に入ってしまい、短編で物足りないなと思っていたら、著者のホームページで長編版の予告があった。😃

横道世之介/おかえり横道世之介   吉田修一

横道世之介/おかえり横道世之介   吉田修一
中公文庫  Audible

『横道世之介』は16年前に読んだのだが、あのストーリーなので、まさか続編が出ているとは思わなかった。Audibleで見つけたので、通して聴いた。

『横道世之介』:いい人のいい話という記憶しかなかったが、読んだはずなのに、世之介が出会うエピソードがこんなに面白かったのかと改めて思う。

『おかえり横道世之介』:留年して就活に乗り遅れ、フリーターをしているが、世之介は健在だった。新しい出会いがあり、皆にかわいがられている。世之介は小さな写真コンクールで佳作となり、ワサビ漬けを貰って喜んでいた。これがきっかけなのか、彼はどのようにしてカメラマンの道に進んだのだろうか。

世之介の善良さは、周りに善良な人たちを呼び込むのだろう。悪人はまったく出てこない。こんな世の中だったらいいなあ。

シリーズ三作目『永遠と横道世之介』があるのも、今まで知らなかった。読みたいけど、Audibleを待つのもありかな。

 

吉田修一の『悪人』『怒り』は十数年来の積読本だが、未だに読む勇気がでない。調べたら、両方とも映画化されていて、アマプラで見られるらしい。どうしよう。映画を見る前に原作を読みたいが、最近、視力がまた弱ってきてちょっとかなしい。でも『悪人』はAudibleにあるのを見つけた! 本を読みながら聴くという贅沢をしようか。



作家と猫

作家と猫 平凡社編集部
平凡社  図書館電子書籍 

NHKの「ネコメンタリー」という番組の書籍版といったところ。理屈っぽいのも、つい笑っちゃうのも、しんみりするのも、よくこれだけ集めたなあ。作家たちのエッセイや詩、漫画や写真で埋め尽くされていて、猫まみれ。どこかに猫の毛、付いてない?

多くの男性作家は猫の中に女を見出しているが、向田邦子は猫に貴男と呼びかけている。人間たちは、猫の中に自分とは異質なものを見出しているのだ。猫を飼っていなければ、作家にはなれないのかも知れない(笑)。セルビアの作家も猫に翻弄されていたっけ。

ああ、面白かった! どれも全部面白いので、紹介したらきりがない。以下に目次だけコピーしておく。同じ趣旨の『作家と犬』という本も見つけたが、借りようかどうか迷っている。作家と犬は相性がいいのだろうか。

 

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目次

Ⅰ 猫、この不可思議な生き物
猫の定義と語源
佐野洋子 『猫ばっか』より二編
串田孫一 猫
日髙敏隆 ネコとドア
手塚治虫 「動物つれづれ草」より「ネコ」
室生犀星 ネコのうた
まど・みちお ネコ
和田誠 桃代
岩合光昭 ネコの時間割/かわいいのに撮れない
出久根達郎 猫の犬

 

Ⅱ 猫ほど見惚れるものはない
向田邦子 マハシャイ・マミオ殿
寺山修司 猫の辞典
尾辻克彦 黒猫が来た
開高健 猫と小説家と人間
萩原朔太郎 青猫
伊丹十三 わが思い出の猫猫
洲之内徹 長谷川潾二郎「猫」
中島らも 『中島らものもっと明るい悩み相談室』より 妻とオス猫への嫉妬で狂いそう
松田青子 選ばれし者になりたい
近藤聡乃 猫はかわいい

 

Ⅲ いっしょに暮らす日々
武田百合子 『富士日記』より
金井美恵子 猫と暮らす12の苦労
石牟礼道子 愛猫ノンノとの縁
大佛次郎 暴王ネコ
永六輔 猫と結婚して
南伸坊 わたしがやってんですよ
いがらしみきお 猫よ猫よ猫よ
小松左京 猫の喧嘩
小沢昭一 老猫・ボロ猫・愛猫記
春日武彦 猫・勾玉
工藤久代 野良猫と老人たち
やまだ紫 山吹

 

Ⅳ 猫への反省文
幸田文 小猫
石井桃子 愛情の重さ
梅崎春生 猫のことなど
石垣りん 白い猫
室生朝子 優雅なカメチョロ

 

Ⅴ 猫がいない!
内田百閒 迷い猫の広告
石田孫太郎 猫の帰らぬ時の心得
岡倉天心/大岡信 訳 親愛なるコーちゃん
武田花 雲
三谷幸喜 「おっしー」を抱いて……/最期に見せた「奇跡」
井坂洋子 黒猫のひたい
吉本隆明 一匹の猫が死ぬこと/自分の「うつし」がそこにいる
夏目漱石 猫の死亡通知

 

Ⅵ 猫的生き方のススメ
田村隆一 カイロの猫
水木しげる 猫の道
養老孟司 猫派と犬派の違いについて
谷崎潤一郎 客ぎらい
平岩米吉 絵画にあらわれた日本猫の尾についての一考察