壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

つきよのたまご  なかがわちひろ

つきよのたまご ちいさなぽぽろのものがたり
なかがわちひろ 文 さとうゆうすけ 絵 ビーエル出版

森にすむ小さな人たちの物語。小さな人たちは、家族といえども多様な形をしている。ふさふさしたしっぽ、昆虫のような羽根、松ぼっくりのような髪の毛…。
みんな違って、みんないい。 月夜のばんに、たまごから生まれてくる妹はどんなこなのだろう。 
かわいいおとぎ話だが、自然との共生や、ダイバーシティ&インクルージョンというようなことも、美しい絵の中に自然に溶け込んでいる。

連休中に泊まりに来る四歳の孫息子のために、移動図書館で、以下の絵本を五冊借りてきた。なるべくいろんな本を選んだ。

電車大好きの腕白坊主なので、『ミニカーたんけんたい』がお気に召すかしら、と思っていたが、案に相違して、この『つきよのたまご』が一番のお気に入りとなった。夜寝る前に読み聞かせる本として、孫が選ぶのは毎晩この本。30ページばかりの絵本だが、最後のページをめくる前に寝息をたてていた。
幼児であっても、こういう世界にちゃんと安心する何かを感じ取っているのかもしれない。

天駆せよ法勝寺  八島游舷

天駆せよ法勝寺  八島游舷

創元SF短編賞受賞作  電子書籍

初めにAudibleで聴き始めたが、何のことやら分からない。電子書籍でテキストを見て納得した。仏教用語を思わせる独特な漢字表現、造語とルビによる重層的な情報量に圧倒された。活字中毒者にとっては、たまらない魅力だ。これって、酉島伝法の『皆勤の徒』と同じ匂いがする!

 

300メートルを超える巨大な九重塔である法勝寺は、七人の僧侶をクルーとして、30光年以上離れた星での大仏開帳に参加するために発進した。
仏教の教義(佛理学)に則り特殊な航法を使うので、どんな星へも四十九日で到達できる。駆動方法は読経とマニ車、船外活動には装佛というパワースーツを纏う。
途中、航行を邪魔する偽佛と戦いながら、目的の星へたどり着くのだが…。

 

一部引用

”佛理学。それは、万物を構成する佛質〈ぶっしつ〉と佛精〈エネルギー〉を相互転換する手法を研究する学術分野である。佛の教えの七割は佛理学として理論化され、再構築された。涅槃経に一切衆生悉有佛性と説く。佛理学では、この概念を拡張し、衆生のみならずあらゆる佛質に佛性があり、佛精と等価であることが宇宙の根本原理であるとする。”(8ページ)

という部分は、E=mc² ってことのようだ。

 

佛教パンクのスペースオペラ。奇想天外な世界で、わけがわからないかとも思うが、なぜか筋の通った話でもあり、笑えてすごく楽しめた。この世界観を気に入ってしまい、短編で物足りないなと思っていたら、著者のホームページで長編版の予告があった。😃

横道世之介/おかえり横道世之介   吉田修一

横道世之介/おかえり横道世之介   吉田修一
中公文庫  Audible

『横道世之介』は16年前に読んだのだが、あのストーリーなので、まさか続編が出ているとは思わなかった。Audibleで見つけたので、通して聴いた。

『横道世之介』:いい人のいい話という記憶しかなかったが、読んだはずなのに、世之介が出会うエピソードがこんなに面白かったのかと改めて思う。

『おかえり横道世之介』:留年して就活に乗り遅れ、フリーターをしているが、世之介は健在だった。新しい出会いがあり、皆にかわいがられている。世之介は小さな写真コンクールで佳作となり、ワサビ漬けを貰って喜んでいた。これがきっかけなのか、彼はどのようにしてカメラマンの道に進んだのだろうか。

世之介の善良さは、周りに善良な人たちを呼び込むのだろう。悪人はまったく出てこない。こんな世の中だったらいいなあ。

シリーズ三作目『永遠と横道世之介』があるのも、今まで知らなかった。読みたいけど、Audibleを待つのもありかな。

 

吉田修一の『悪人』『怒り』は十数年来の積読本だが、未だに読む勇気がでない。調べたら、両方とも映画化されていて、アマプラで見られるらしい。どうしよう。映画を見る前に原作を読みたいが、最近、視力がまた弱ってきてちょっとかなしい。でも『悪人』はAudibleにあるのを見つけた! 本を読みながら聴くという贅沢をしようか。



作家と猫

作家と猫 平凡社編集部
平凡社  図書館電子書籍 

NHKの「ネコメンタリー」という番組の書籍版といったところ。理屈っぽいのも、つい笑っちゃうのも、しんみりするのも、よくこれだけ集めたなあ。作家たちのエッセイや詩、漫画や写真で埋め尽くされていて、猫まみれ。どこかに猫の毛、付いてない?

多くの男性作家は猫の中に女を見出しているが、向田邦子は猫に貴男と呼びかけている。人間たちは、猫の中に自分とは異質なものを見出しているのだ。猫を飼っていなければ、作家にはなれないのかも知れない(笑)。セルビアの作家も猫に翻弄されていたっけ。

ああ、面白かった! どれも全部面白いので、紹介したらきりがない。以下に目次だけコピーしておく。同じ趣旨の『作家と犬』という本も見つけたが、借りようかどうか迷っている。作家と犬は相性がいいのだろうか。

 

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目次

Ⅰ 猫、この不可思議な生き物
猫の定義と語源
佐野洋子 『猫ばっか』より二編
串田孫一 猫
日髙敏隆 ネコとドア
手塚治虫 「動物つれづれ草」より「ネコ」
室生犀星 ネコのうた
まど・みちお ネコ
和田誠 桃代
岩合光昭 ネコの時間割/かわいいのに撮れない
出久根達郎 猫の犬

 

Ⅱ 猫ほど見惚れるものはない
向田邦子 マハシャイ・マミオ殿
寺山修司 猫の辞典
尾辻克彦 黒猫が来た
開高健 猫と小説家と人間
萩原朔太郎 青猫
伊丹十三 わが思い出の猫猫
洲之内徹 長谷川潾二郎「猫」
中島らも 『中島らものもっと明るい悩み相談室』より 妻とオス猫への嫉妬で狂いそう
松田青子 選ばれし者になりたい
近藤聡乃 猫はかわいい

 

Ⅲ いっしょに暮らす日々
武田百合子 『富士日記』より
金井美恵子 猫と暮らす12の苦労
石牟礼道子 愛猫ノンノとの縁
大佛次郎 暴王ネコ
永六輔 猫と結婚して
南伸坊 わたしがやってんですよ
いがらしみきお 猫よ猫よ猫よ
小松左京 猫の喧嘩
小沢昭一 老猫・ボロ猫・愛猫記
春日武彦 猫・勾玉
工藤久代 野良猫と老人たち
やまだ紫 山吹

 

Ⅳ 猫への反省文
幸田文 小猫
石井桃子 愛情の重さ
梅崎春生 猫のことなど
石垣りん 白い猫
室生朝子 優雅なカメチョロ

 

Ⅴ 猫がいない!
内田百閒 迷い猫の広告
石田孫太郎 猫の帰らぬ時の心得
岡倉天心/大岡信 訳 親愛なるコーちゃん
武田花 雲
三谷幸喜 「おっしー」を抱いて……/最期に見せた「奇跡」
井坂洋子 黒猫のひたい
吉本隆明 一匹の猫が死ぬこと/自分の「うつし」がそこにいる
夏目漱石 猫の死亡通知

 

Ⅵ 猫的生き方のススメ
田村隆一 カイロの猫
水木しげる 猫の道
養老孟司 猫派と犬派の違いについて
谷崎潤一郎 客ぎらい
平岩米吉 絵画にあらわれた日本猫の尾についての一考察

作家・幽霊作家 ゾラン・ジヴコヴィチ

作家・幽霊作家  ゾラン・ジヴコヴィチ
三門優祐訳 盛林堂ミステリアス文庫

セルビアの作家ジヴコヴィチの作品の六冊目。
中編くらいの長さの作品:「作家」(1998)、「幽霊作家」(2009)と執筆年代の離れた二編が入っている。どちらも、執筆に行き詰まった作家の話だ。ジヴコヴィチ本人の話でもあるのだろう。そして作家の友人も、作家にメールを送ってくる者たちも皆、作家の人格の一部なのかもしれない。

 

「作家」:〈私〉は書けないことに悩むが、どんなに部屋の環境を整えても、一本指のキーボード入力から音声入力に切り替えても、書けないものは書けない。自信満々の友人の作家は、精神分析もどきのアドヴァイスをくれるのだが、それ以上に自分勝手に邪魔をしてくる。友人は手書きでないと執筆できないので、完成原稿をコンピューターに入力するのだが、保存する前にコンピューターの電源を落としたとかで、泣きついてくる。そしてテクノロジーに対する嫌悪を持っているとかで、フロッピーを持って〈私〉のレーザープリンターを借りに来るのだ。さらに作品のジャンルにまでアドヴァイスを押し付けて、〈私〉を混乱に陥らせる。

 

「幽霊作家」:読者からのメールが気になってしょうがない作家。メールの着信音を設定し、読者毎にフォルダ分けしてナンバリングする。メールの送信者達は、作家にいろいろな要求をするのだ。自分の作品を読んで欲しいとか、偽名で発表して欲しいとか、パスティーシュの許可を欲しいとか。極めつけは、代わりに作品を書いて自分の名前で発表して欲しい(ゴーストライターになって欲しい)という、崇拝者を名乗る者など。しだいに要求は理不尽でわけのわからないものになっていく。作家と作品と読者との関係が揺らいでいくような展開だ。作家が飼っているフェリックスという猫は、ノートパソコンの上で昼寝をするので、執筆はさらにままならない。メールの中で猫の名前で呼ばれる作家。猫と作家の関係が魅力的だった。 

 

作家は皆、猫を飼っているのかなあ、といつも思う。『作家と猫』という本を見つけた。図書館の電子書籍にあったので、さっそく読もう。

 

書けなくなった(書かなくなった)作家が、バートルビー(『書記バートルビー』に由来)の仲間であるという、『バートルビーと仲間たち』(エンリーケ・ビラ=マタス著)があるそうだ。小説なのか文学論なのか分からないが、いつか図書館で借りてみよう。

雑草のくらし-あき地の五年間- 甲斐 信枝

雑草のくらし あき地の五年間   甲斐 信枝(著, イラスト)
福音館の科学シリーズ 図鑑カフェ


長い雨のあと、久しぶりに散歩していると、手入れの行き届かない耕作地が、一面の雑草で覆われていました。雑草たちはなんて元気なんだろう!と感心したのです。その途中に寄った博物館の図鑑カフェで、この本が展示されていました。グッドタイミングの出会いです。自販機のアイスコーヒーを飲みながら、絵本を読みました。

著者の甲斐信枝さんは、三年前に93歳で亡くなりましたが、植物や昆虫を題材にした絵本の著作がたくさんあります。この『雑草のくらし』は草刈が終わった畑の中の空き地で、五年間どんな雑草が増えていくかを観察して絵に描いたものです。
生態学の研究手法にコドラート法(方形区法)というのがあって、その区画の中にどんな植物種がどれくらいあるかを調べるものです。甲斐さんの観察も、まるでそんな研究のように、空き地の変化を五年間追い続けています。観察は科学的ですが、その表現はもっと楽しくて、雑草たちに寄り添った心温まるものです。

なにも生えていない空き地に、春一番にメヒシバが芽を出し、背の低い雑草たちが育っていきます。花を咲かせ、実をむすび、種をまき散らしていく。しだいに大型の雑草オオアレチノギクやセイタカアワダチソウが優勢になり、そしてつる性のヤブガラシやクズが繁茂していきます。植物に集まってくる昆虫や動物達の姿もありました。

一時期、我が家の前の空き地は季節になるとセイタカアワダチソウに占領されていましたが、今は数がすっかり少なくなりました。アレロパシー(他の植物の発芽や成長を抑える物質を出すこと)が自滅的に働いているという説もありますが、生物というのはもともと栄枯盛衰の中で生きているのです。

著者の甲斐さんには、90歳で出版された『あしなが蜂と暮らした夏』という著作があります。アシナガバチが青虫狩りをする姿に魅せられて、蜂たちを幼虫から育てることになったという話だそうです。面白そうなので、図書館に予約します。
我が家の庭で、アシナガバチが青虫を肉団子にしているところに出会ったことがあります。巣に近づいたりしなければ刺さないのですが、私は飼おうという気にはなれませんでした。

 

レイクサイド・ストーリー  サラ・パレツキー

レイクサイド・ストーリー  V・I・ウォーショースキー シリーズ二作目
サラ・パレツキー 山本やよい訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 Kindle Unlimited

V・I・ウォーショースキーのシリーズ一作目は『サマータイム・ブルース』。ファーストネームを隠しているわけではないが、すぐに教えたくないのには理由があると、フェミニズム的な視点を明らかにしているが、ごく親しい人からはヴィクと呼ばれている。

 

かつてアイスホッケーのスター選手だった従兄のブームが、港で海に転落して亡くなった。従兄は怪我をして選手を引退した後、五大湖の水運業界で働いていた。彼の死に疑問を抱いたヴィクは調査を始める。調べを進めるうちに、五大湖水路を行きかう水運会社や穀物会社の利権が隠されていることに気づく。

 

女性とはいえ、大胆でものすごくタフなシカゴの私立探偵ヴィク(V・I・ウォーショースキー)は、調査中に何度も危ない目に会う。車に細工されて自動車事故に巻き込まれ、巨大貨物船に乗り込んで爆発事故に遭う。さらに船舶火災で冷たい海に飛び込んで、危うく死にかける。ハードボイルドを超えて、ブルース・ウィリス並みのダイ・ハードじゃないの。ハラハラするけれど、ヴィク・シリーズは原著で2024年までの22巻が出ているので、大怪我しても死なないな、と思いながら読んだ。

 

海運業界の財務的不正の部分は専門用語が多すぎてすんなり理解できなかったが、五大湖の水運の様子が面白かった。そういえば昔、高校の地理で習ったような気もするが、覚えていないので、五大湖がどのようにつながり、セントローレンス河を経て海に到るのか地図を眺めた。一番奥のスペリオル湖とヒューロン湖の間には落差があって、閘門(Lock 水門)が設けられている。その閘門の中で巨大貨物船が爆破される場面は凄かった。

wikipedia より

第三作は『センチメンタル・シカゴ』。案内文に”亡き母親にまつわる衝撃の事実が明かされる”とあるので、読みたくなる。読み放題なので、そのうちに。