壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

火星の人  アンディ・ウィアー

火星の人(上・下)  アンディ・ウィアー

小野田和子訳 ハヤカワ文庫SF 電子書籍

これまで読んできた私的【火星】シリーズは、ある程度のテラフォーミングがなされて、人類が火星に居住した時期を描いたものだったが、本書は火星開拓史のごく初期に起きた事件だ。

有人探査の三回目のミッションで、事故によりクルーの一人が火星に取り残された。火星独りぼっちとなった植物学者でメカニカル・エンジニアのマーク・ワトニーの壮絶サバイバルが、ユーモアたっぷりに描かれている。次々に起きる難題を、主人公は知識と技術力と根性と冷静な判断力で乗り越えていく。サバイバルのために使われたSFガジェットは架空の物ではなく、現在の科学技術の延長上にある物で、リアリティーが半端ない。

例えば、不足する食糧の確保問題。まず燃料から水素を分離して酸素と化合させて水を作る。この辺りの科学技術の応用という点で、『神秘の島』での漂流生活を彷彿させる。さらに、わずかに残っていた地球の土と火星の土を混ぜて、まず土壌細菌を育て、その後ジャガイモを植える。肥料は自前の最高級有機質肥料(!)。

全世界が見守る中、最後に次期ミッションのMAV船を改造して、迎えに来た宇宙船とドッキングする場面でのあり得ない発想は、エンジニアたちの頑張りがおもしろい番組「魔改造の夜」のようだった。

映画化された「オデッセイ」は、以前、映画館に見に行った覚えがある。映画よりも原作の方がさらに読み応えがあり、あまりに面白いので一気に読み切った。

コロナ以前は特撮SF映画を劇場で見るのが楽しみだったが、今は映画館からはすっかり足が遠のいてしまった。コロナのせいなのか、70歳を過ぎたせいなのか…