壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

f植物園の巣穴  梨木果歩

f植物園の巣穴  梨木果歩

朝日文庫  電子書籍

K植物園の技官である「私」はf植物園に転任した。ある夜、植物園の大木のうろに落ちて、そこで遭遇する人物や植物や動物と不思議な体験をする。現実なのかさえ明らかではない日常と、夢のような体験と、封印されていた「私」の過去の記憶が入り混じって、迷路に入り込んだようになりながら読んだ。現在と過去を往還し、断片的だった「私」の記憶が少しずつ繋がっていく。亡くなった人と、亡くなっていない人とが明らかになって、「私」は自分自身を取り戻したようで、なんとか穏やかな気持ちで読み終えた。

書かれている時代はいつ頃なのだろうか、古風な言葉遣いが心地いい。また植物の名前がふんだんに出てくるので、それも楽しい。小石川植物園神代植物公園にまた行きたくなった。深大寺跡の水生植物園はまだ見ていない。

 

後日譚の『椿宿の辺りに』を先に読んでしまったので少し構えて読み始めたが、そんなに気にする必要もなかった。「私」は佐田豊彦という名で、『椿宿の辺りに』の語り手の「私」佐田山幸彦の曽祖父に当たるようだ。もし佐田豊彦が巣穴に落ちなかったら、祖父の佐田藪彦が生まれることもなかった、というわけだ(これは重大なネタバレかもしれないが)。