壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

サハマンション   チョ・ナムジュ

サハマンション   チョ・ナムジュ

斎藤真理子訳 筑摩書房 電子書籍

韓国に寄ってみました。フェミニズム小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者、チョ・ナムジュの二冊目は『サハマンション』。

極端な格差社会の中で、ライフラインもおぼつかない、荒廃した団地サハマンションに暮らす社会的弱者や底辺層の人々が描かれている。複雑な過去を抱えながらも個性豊かに暮らす人たちだ。その人々がミステリアスにかつユーモラスに語られていて、物語にすぐに引きこまれた。

企業誘致した自治体が破産して、企業に買収される形で独立した都市国家「タウン」というSF設定ではあるが、そこで起きる出来事は現実の事件や状況(セウォル号、MERS感染症、ろうそく革命、難民問題、財閥主導の経済など)を象徴している。(映画「パラサイト 半地下の家族」で描かれていた住宅格差も思い出した。)

「タウン」の住民権を持つ「L」たちは経済力と知識や技術を持つ人々だ。それ以外の人々は、在留権だけを持つ「L2」で、報酬の少ない単純労働にかかわっている。そして二年毎に審査を受けてないと、在留権を延長してもらえない。安価な労働力を確保するための政策なのだ。

ところがサハマンションに住む人々はL2ですらなかった。「サハ」と呼ばれ、社会からは見えないもののように扱われ、何者でもなく、まともな働き口はないという、絶対的な格差社会だ。制度的に固定化された格差を乗り越える方法など、ありそうにない。そんな救いのない中でも、助け合いながらなんとか生き延びようとする人たちに人間性を見出した。

最後にサハマンション取り壊しに抗議するため向かった総理館の議会場で、ジンギョンが知った政権中枢の空虚さは、絶望を意味するのだろうか、それとも希望なのだろうか。………希望と思いたいが……。