魚舟・獣舟 上田 早夕里
『火星ダーク・バラード』で魅力を知った作者の短編集。SF、ホラー、ミステリ、心理小説などバラエティに富んではいるが、どれもが終末観ただよう世界の中で語られ、硬質なキレのいい文章がその世界をいっそう明確に写し出している。表題作の「魚舟・獣舟」はやはり素晴らしい。
あらすじを書き留めるのが難しく、覚書程度のものしか書けない。
「魚舟・獣舟」 ほとんどの陸地が水没した世界で、水上生活をするヒトの乗る舟は魚舟という生物。「私」は体長15メートルの獣舟を見かけた。父はうれしそうに言った。あれはおまえの伯母さんだ。
♪想像を超えた世界を見せてもらった。オーシャンクロニクル・シリーズの1作目にあたるそうで、そのうちぜひ読もう。
「くさびらの道」 新種の真菌による感染症が九州から西日本に広がってきた。感染して死ぬと幽霊になるという。
♪いわゆるアメリカン・ゾンビは日本にはふさわしくない。やっぱり日本独特の「アル・クシガイ」は、もっと陰惨で哀しくて怖い。
「饗応」 崩壊する世界の中で、会社員として働いている人工知性体の哀しみ
♪流れる温泉で身体が、文字通りバラバラにほぐれるのは、人工知性体だからなのか
「真朱の街」 妖怪に子供をさらわれて、妖怪探偵に捜索を依頼する。
♪サイバネティックスと再生医療の果てに異形となった人間が、妖怪と共生する街。シリーズ物らしい。
♪思い出は永遠に
「小鳥の墓」選民だけが暮らすことのできる特区で育った少年の半生。
♪社会実験としての教育や生活によって歪んでいく人間たちを突き放すように描く。『火星ダーク・バラード』に登場するサイコパスの少年時代。