壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

海外文学

三体 Ⅰ  劉 慈欣

三体 Ⅰ 劉 慈欣 早川書房 電子書籍 少し前に話題になった中国SFをやっと読み始めた。いわゆるファースト・コンタクト物だった。世界で大ベストセラーと聞いていたのだが、SFとしては正統派でひねりのない単純明快な筋立てだ。科学ネタがたっぷり仕込まれて…

湖畔荘(上/下) ケイト・モートン

湖畔荘(上/下) ケイト・モートン 青木純子 訳 創元推理文庫 電子書籍 ケイト・モートンのデビュー作『リヴァトン館』では,英国のお屋敷での70年前の未解決の事件が,95歳の元メイドの視点で語られていました。過去と現在を行ったり来たりしながら,緻密…

批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖講義  廣野由美子

批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖講義 廣野由美子 中公新書 電子書籍 『フランケンシュタイン』を読み終わって,モヤモヤしている所でこの本を見つけた。小説の技法と批評理論を解説するために,実例として『フランケンシュタイン』を徹底的に解剖…

償いの雪が降る アレン・エスケンス

償いの雪が降る アレン・エスケンス 務台夏子 訳 創元推理文庫 電子書籍 邦題の『償いの雪が降る』という題名からハードボイルドを想像していたのは,間違いでした。センチメンタルといってもいいほどで,ジョー・タルバートという若者の純粋で一生懸命なボ…

ブラックサマーの殺人  M W クレイヴン

ブラックサマーの殺人 M W クレイヴン 東野さやか 訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 ワシントン・ポーの二作目も面白かった。冒頭,高級レストランでポー部長刑事が逮捕される場面から始まり,何事が起きていたのかとわくわくさせられる。 6年前に三ツ星レストラ…

ねじの回転 ヘンリー・ジェイムズ

ねじの回転 ジェイムズ 光文社古典新訳文庫 土屋政雄 訳 Kindle Unlimited 2012/9 ねじの回転 ヘンリー・ジェイムズ 新潮文庫 小川高義 訳 Kindle版 2017/9 一人称の物語で思い出したのがヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』。読み終わった『むらさきのス…

むらさきのスカートの女  今村夏子

むらさきのスカートの女 今村夏子 朝日文庫 電子書籍 芥川賞受賞作。中編で読みやすくて話の展開が面白く,ひねったユーモアがあった。「わたし」が語る「むらさきのスカートの女」。「信頼できない語り手」によるミステリアスな雰囲気があって,騙されたよ…

バージェス家の出来事 エリザベス・ストラウト

バージェス家の出来事 エリザベス・ストラウト 小川高義 訳 早川書房 電子書籍 バージェス家はメイン州の小さな町にある貧しい白人の家だった。ジムとボブの兄弟二人はニューヨークに出て成功し,司法関係の仕事をしている。ボブと双子の妹のスージーはメイ…

風の十二方位 アーシュラ K ル・グィン

風の十二方位 アーシュラ K ル・グィン 小尾 芙佐・他 訳 ハヤカワ文庫SF 電子書籍 ル・グィンの初期短編集で,17編のバラエティに富んだ作品が収められている。あまりにも多彩なため,各作品の場面設定が分からないものが多い。著者自身のまえがきが作品ご…

多摩川物語 ドリアン助川

多摩川物語 ドリアン助川 ポプラ文庫 電子書籍 多摩川沿いに住むごく普通の人々の,誰もがみんな抱えている鬱屈,悩みをそっと拾い上げて,ちょっとだけ救ってくれる,切なくて心温まる8つの連作短編です。わかりやすい言葉で繊細な感情が表現されて,気が付…

世直し小町りんりん  西條奈加

世直し小町りんりん 西條奈加 講談社文庫 Kindle Unlimited 今年最後の,お口直しに最適な,痛快というより軽快なエンターテインメント時代物です。元は『朱龍哭く 弁天観音よろず始末記』という単行本が改題されて文庫本になっています。元の題のほうが分か…

乗客ナンバー23の消失  セバスチャン・フィツェック

乗客ナンバー23の消失 セバスチャン・フィツェック 酒寄進一 訳 文春文庫 電子書籍 2020年,豪華クルーズ船はコロナの集団感染の実験場となり,その人気は失墜したかに見えました。その後,復活した船も,引退した船もあるようです。コロナさえ治まれば,や…

よこまち余話 木内昇

よこまち余話 木内昇 中公文庫 電子書籍 明治なのか大正なのか,いつの時代なのか,神社と御屋敷に挟まれた短い路地にある長屋にひっそりと住む人たちがいる。坂の多い場所なので東京の何処かかもしれない。齣江はお針子を生業としている。向かいの長屋に住…

くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女   ホフマン

くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女 ホフマン大島かおり訳 光文社古典新訳文庫 Kindle Unlimited クリスマスといえば『くるみ割り人形』が定番です。3年ぶりに来日しているウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)の今年の演目はチャイコフス…

刑事のまなざし/その鏡は嘘をつく/刑事の約束/刑事の怒り  薬丸岳

刑事のまなざし/その鏡は嘘をつく/刑事の約束/刑事の怒り 薬丸岳 刑事夏目信人シリーズ4冊 講談社文庫 Kindle Unlimited 昔見たTVドラマが好印象だった。主演俳優の顔以外,ドラマの詳細はすっかり忘れているので,読みたかった原作4巻を読み放題で一気読…

電柱鳥類学  三上 修

電柱鳥類学 スズメはどこに止まってる? 三上 修 岩波科学ライブラリー 電子書籍 散歩に行くたびに見かける電柱と鳥たちが研究対象になっている面白い本です。電線に止まるスズメとカラスの位置関係について深く考えたこともなかったけれど,そういえばカラス…

走れ、走って逃げろ  ウーリー・オルレブ

走れ、走って逃げろ ウーリー・オルレブ 母袋夏生 訳 岩波少年文庫 Kindle Unlimited ワルシャワのゲットーから貨車に乗せられて,多くのユダヤ人が絶滅収容所に送られていた頃のことです。ポーランド系ユダヤ人の8歳の少年スルリックは,ゲットーから逃げ出…

その昔、N市では  カシュニッツ

その昔、N市では カシュニッツ短編傑作選 マリー・ルイーゼ・カシュニッツ 酒寄 進一 訳 東京創元社 電子書籍 シーラッハの翻訳者である酒寄さんの編んだ,新訳による短編集。(酒寄さんの追っかけをしました。) 超常現象や幻想的な奇妙な味のものから,女…

シネマコンプレックス 畑野智美

シネマコンプレックス 畑野智美 光文社文庫 電子書籍 東京近郊の地方都市にあるシネコンで働く人々を描く連作7編。描かれるのはあるクリスマスイブの一日の出来事で,各編の語り手がそれぞれ違う持ち場で働く7人です。アルバイトやパートがたくさん働くシネ…

わたしの名は赤 上/下 オルハン・パムク

わたしの名は赤 〔新訳版〕 上/下 オルハン・パムク 宮下遼 訳 ハヤカワepi文庫 電子書籍 16世紀末,オスマン帝国支配下のイスタンブルで細密画の絵師が殺された。冒頭から,殺されて井戸に投げ込まれた屍が語り手となる。章ごとに次々と語り手が入れ替わり…

ポロック生命体  瀬名秀明

ポロック生命体 瀬名秀明 新潮文庫 電子書籍 瀬名さんのSFは宇宙でも異世界でもなく,私たちの現実の隣にある,少し未来の話です。科学者らしい合理的な考察の向こうにあるのはゴリゴリのハードなSFではなくて,科学技術の進歩を私たちがどんな風に受け入れ…

みんなが手話で話した島 ノーラ・エレン・グロース

みんなが手話で話した島 ノーラ・エレン・グロース 佐野正信 訳 ハヤカワ文庫NF 電子書籍 ニューヨーク・ロングアイランドの東,ボストンの南にあるマーサズ・ヴィンヤード島には,20世紀の初めまで,多くの聾者が住んでいました。ヴィンヤード島の人々は健…

刑罰 フェルディナント・フォン・シーラッハ

刑罰 フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一訳 創元推理文庫 電子書籍 『犯罪』『罪悪』に続く,12編の短編。『犯罪』は罪を犯さざるを得なかった被告人たちの哀しみが描かれた感動作,『罪悪』は描く観点が全く異なり居心地の悪い感じで読み終えた…

まるまるの毬 / 亥子ころころ  西條奈加

まるまるの毬 / 亥子ころころ 西條奈加 講談社文庫 電子書籍 読むだけで血糖値が上がりそうな,人情時代物の連作7編です。『まるまるの毬』はじめ,章の名前はすべてお菓子の名前で,どれも食べてみた~い。 和菓子職人の治兵衛と娘お永,孫娘お君が営む麹…

歩道橋の魔術師  呉明益

歩道橋の魔術師 呉明益 河出文庫 電子書籍 台北市にかつてあった1980年代の中華商場を,かつてそこに住んでいた子供たちの記憶がたどる,不思議な物語です。 子供時代の記憶は,一部分だけは鮮明で強烈な印象がありますが,それを取り囲む状況などのまわりの…

カラスの親指 / カエルの小指 道尾秀介

カラスの親指 道尾秀介 カエルの小指 道尾秀介 講談社文庫 電子書籍 続編の『カエルの小指』を読もうとしたのに,『カラスの親指』を読んだ記録がない。変だな,記憶はあるのに…阿部寛の顔がちらつく…という事は映画を見たのでした。面白かったことは覚えて…

病魔という悪の物語 ―チフスのメアリー 金森 修

病魔という悪の物語 ―チフスのメアリー 金森 修 ちくまプリマー新書 電子書籍 スーパー・スプレッダーにはいろいろな定義がありますが,一人の感染者が平均以上に多数の人に感染させる特徴をもった患者(不顕性感染もある)の事です。スーパー・スプレッダー…

雪の練習生  多和田葉子

雪の練習生 多和田葉子 新潮社 電子書籍 三世代のホッキョクグマが語る物語は,読み始めには設定の奇妙さに戸惑った。だが,よく考えてみれば昔ばなしも童話も神話も,動物と人間が対等に交流する設定はいくらでもある。異種婚姻譚とは言えないが,異種が交…

湖の男 アーナルデュル・インドリダソン

湖の男 アーナルデュル・インドリダソン 柳沢由実子訳 創元推理文庫 電子書籍 アイスランドミステリー,インドリダソンの4冊目。過去を掘り起こす男エーレンデュル捜査官が今回追いかけるのは,干上がった湖の底で見つかった白骨死体。1970年代に湖底に捨て…

同姓同名 新津きよみ

同姓同名 新津きよみ カドカワ文庫→アドレナライズ 電子書籍 「田中緑」という名前だったら,同姓同名はたくさんいるでしょうね。Facebookで探しても何十人も出てきますもの。 結婚して「田中緑」になった女と、もうじき「田中緑」になるはずだった女が交互…