壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

統合失調症の一族  ロバート・コルカー

統合失調症の一族  遺伝か、環境か ロバート・コルカー

柴田裕之訳  早川書房   電子書籍

20世紀半ばから現在までの、12人の兄弟姉妹のうち6人が統合失調症を発症した家族のファミリーヒストリー統合失調症研究史を重ねたノンフィクション。

コロラドに住むギャルヴィン家のドンとミミの夫婦は20年間で12人の子供を持った。10人の息子はハンサムでそれぞれに豊かな才能を持っていたが、そのうち6人は思春期になると精神に変調をきたした。その騒動と家族の苦悩が克明に描かれている。あまりにあからさまに描かれているので、最初は戸惑ったのだが、主に後半部分の精神医学の治療方法の変遷と、病因の研究史をたどるために必要な記述だったことに思い至る。ギャルヴィン家の悲劇的な状況にあって、末娘リンジーの献身的な努力で家族が再生していく様子に希望が持てた。

先に読んだ『エクソダス症候群』はフィクションと精神医学史が絡んだものだったが、このノンフィクションは凄まじい。優生学の名残、統合失調症を誘発する母親というレッテル、世間の偏見、闇雲な薬物療法、その果ての電気ショック療法と拘束。統合失調症の病因が分からないまま、症状のみを抑え込もうとする医療があった。ゲノム解析が行われるようになり、遺伝学と神経生理学の研究が融合して、統合失調症関連遺伝子がいくつも見つかったそうだが、未だ病因も謎の部分が多く、なぜ多様な病態があるのかもわかっていない。現在では症状はコントロール可能だそうだが、難しい面もあるらしい。

 

病気が多発する家系のゲノム解析によって病因が明らかになった病気はたくさんあるが、残念ながら統合失調症は遺伝子だけでは説明できないことも多そうだ。『眠れない一族』という同じような趣旨の本がある。「食人の痕跡と殺人タンパクの謎」という副題がそぐわない良質のノンフィクションだった。