夢みる葦笛 上田早夕里
上田早夕里さんの三冊目は10編の短編集です。広義にはSFですが、音楽、宇宙、怪奇、歴史、人工知能などをテーマとして、思索的な深みもある作品ばかりでした。短編とはいえ、読み始めてすぐに物語の背景世界が浮かび上がってきて、話に取り込まれてしまいます。キレのいい硬質の語り口も読みやすくて心地がよい。
人工知能をテーマにしたものは、人間と人工生命体の接点から、人間とは何か? 知性とは何か?を問いかけてきます。宇宙をテーマにしたものは意表を突いた発想でありながら、現代科学の延長である未来のテクノロジーに納まりそうな確かさがあって、荒唐無稽には終わりません。
異色な歴史改変物「上海フランス租界祁斉路三二〇号」が印象的で、上海シリーズは既刊が三冊あるので、以後これを追いかけてみようかと思っています。
上海に行く前に、ちょっと隣の韓国に寄ってみよう。
以下は忘れないようにメモ
「夢みる葦笛」:イソギンチャクに似た形状の生物が奏でる完ぺきな音楽に反感を覚える亜紀。完璧な音楽より不完全な物にこそ美があるのか。
♪AIによるDTMとか、もう未来のことではない…。
「眼神」:西日本の田舎に住む華乃は、従兄の勲ちゃんに取り憑いたマナガミ様を退治しようと…。
♪華乃ちゃん、頑張ってね!
「完全なる脳髄」:普通の人間になることを望んでいる人工身体をもつ合成人間は移植可能な生体脳を求めて…。
♪ハードボイル度3
「石繭」:通勤の途中で見つけた、電柱に張り付いた白い大きな繭。その中に入っていた色とりどりの石は記憶。
♪石の中に閉じ込められた記憶(物語)を受け継いでいくのは、作家本人なのだろう。
「氷波」:土星を観測している人工知性体が会話している、土星の輪の落差1600㍍の大波でサーフィンする時の感覚データを採るために。
♪人工知性体達の会話がたのしい。
「滑車の地」:冥海と呼ばれる泥の海に住む危険な生物を避け、海上に生き残った人たちは滑車とロープで行き来する。新たな土地を探す飛行体のテストパイロットに選ばれたのは人間ではなく…。
♪地表がすべて水没し泥に覆われたディストピアの泥棲生物が怖いのよ。
「プテロス」:太陽系外惑星で研究する宇宙生物学者のユキオは、シリコン系飛翔生物プテロスを利用して炭化水素の海を移動していた。
♪この惑星の林立する〈凍石柱〉はなんとプテロスのストロビラ幼生だった…。
「楽園 (パラディスス)」:クリスマスの日に事故で亡くなった宏美を忘れられない〈私〉は宏美のメモリアル・アバターと暮らすようになった。さらに脳内デバイスを埋め込むと…。
♪ラブロマンス的思考実験小説?
「上海フランス租界祁斉路三二〇号」:1931年の上海、新設された日中共同の上海自然科学研究所に赴任した日本人研究者。パラレルワールド設定で、史実と虚構のあいだの物語が素晴らしい。
♪この歴史小説、ぜひ読みたい!
「アステロイド・ツリーの彼方へ」:宇宙開発の民間企業で働く杉野は、宇宙からの観測データを感覚データに変換する仕事をしている。あるとき人工知性開発のためのモニターとして、人工知性である機械猫バニラと暮らすことになった。その任務を終えた時…。
♪もしかして杉野さんはペットロス?