壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

海外文学

くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女   ホフマン

くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女 ホフマン大島かおり訳 光文社古典新訳文庫 Kindle Unlimited クリスマスといえば『くるみ割り人形』が定番です。3年ぶりに来日しているウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)の今年の演目はチャイコフス…

刑事のまなざし/その鏡は嘘をつく/刑事の約束/刑事の怒り  薬丸岳

刑事のまなざし/その鏡は嘘をつく/刑事の約束/刑事の怒り 薬丸岳 刑事夏目信人シリーズ4冊 講談社文庫 Kindle Unlimited 昔見たTVドラマが好印象だった。主演俳優の顔以外,ドラマの詳細はすっかり忘れているので,読みたかった原作4巻を読み放題で一気読…

電柱鳥類学  三上 修

電柱鳥類学 スズメはどこに止まってる? 三上 修 岩波科学ライブラリー 電子書籍 散歩に行くたびに見かける電柱と鳥たちが研究対象になっている面白い本です。電線に止まるスズメとカラスの位置関係について深く考えたこともなかったけれど,そういえばカラス…

走れ、走って逃げろ  ウーリー・オルレブ

走れ、走って逃げろ ウーリー・オルレブ 母袋夏生 訳 岩波少年文庫 Kindle Unlimited ワルシャワのゲットーから貨車に乗せられて,多くのユダヤ人が絶滅収容所に送られていた頃のことです。ポーランド系ユダヤ人の8歳の少年スルリックは,ゲットーから逃げ出…

その昔、N市では  カシュニッツ

その昔、N市では カシュニッツ短編傑作選 マリー・ルイーゼ・カシュニッツ 酒寄 進一 訳 東京創元社 電子書籍 シーラッハの翻訳者である酒寄さんの編んだ,新訳による短編集。(酒寄さんの追っかけをしました。) 超常現象や幻想的な奇妙な味のものから,女…

シネマコンプレックス 畑野智美

シネマコンプレックス 畑野智美 光文社文庫 電子書籍 東京近郊の地方都市にあるシネコンで働く人々を描く連作7編。描かれるのはあるクリスマスイブの一日の出来事で,各編の語り手がそれぞれ違う持ち場で働く7人です。アルバイトやパートがたくさん働くシネ…

わたしの名は赤 上/下 オルハン・パムク

わたしの名は赤 〔新訳版〕 上/下 オルハン・パムク 宮下遼 訳 ハヤカワepi文庫 電子書籍 16世紀末,オスマン帝国支配下のイスタンブルで細密画の絵師が殺された。冒頭から,殺されて井戸に投げ込まれた屍が語り手となる。章ごとに次々と語り手が入れ替わり…

ポロック生命体  瀬名秀明

ポロック生命体 瀬名秀明 新潮文庫 電子書籍 瀬名さんのSFは宇宙でも異世界でもなく,私たちの現実の隣にある,少し未来の話です。科学者らしい合理的な考察の向こうにあるのはゴリゴリのハードなSFではなくて,科学技術の進歩を私たちがどんな風に受け入れ…

みんなが手話で話した島 ノーラ・エレン・グロース

みんなが手話で話した島 ノーラ・エレン・グロース 佐野正信 訳 ハヤカワ文庫NF 電子書籍 ニューヨーク・ロングアイランドの東,ボストンの南にあるマーサズ・ヴィンヤード島には,20世紀の初めまで,多くの聾者が住んでいました。ヴィンヤード島の人々は健…

刑罰 フェルディナント・フォン・シーラッハ

刑罰 フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一訳 創元推理文庫 電子書籍 『犯罪』『罪悪』に続く,12編の短編。『犯罪』は罪を犯さざるを得なかった被告人たちの哀しみが描かれた感動作,『罪悪』は描く観点が全く異なり居心地の悪い感じで読み終えた…

まるまるの毬 / 亥子ころころ  西條奈加

まるまるの毬 / 亥子ころころ 西條奈加 講談社文庫 電子書籍 読むだけで血糖値が上がりそうな,人情時代物の連作7編です。『まるまるの毬』はじめ,章の名前はすべてお菓子の名前で,どれも食べてみた~い。 和菓子職人の治兵衛と娘お永,孫娘お君が営む麹…

歩道橋の魔術師  呉明益

歩道橋の魔術師 呉明益 河出文庫 電子書籍 台北市にかつてあった1980年代の中華商場を,かつてそこに住んでいた子供たちの記憶がたどる,不思議な物語です。 子供時代の記憶は,一部分だけは鮮明で強烈な印象がありますが,それを取り囲む状況などのまわりの…

カラスの親指 / カエルの小指 道尾秀介

カラスの親指 道尾秀介 カエルの小指 道尾秀介 講談社文庫 電子書籍 続編の『カエルの小指』を読もうとしたのに,『カラスの親指』を読んだ記録がない。変だな,記憶はあるのに…阿部寛の顔がちらつく…という事は映画を見たのでした。面白かったことは覚えて…

病魔という悪の物語 ―チフスのメアリー 金森 修

病魔という悪の物語 ―チフスのメアリー 金森 修 ちくまプリマー新書 電子書籍 スーパー・スプレッダーにはいろいろな定義がありますが,一人の感染者が平均以上に多数の人に感染させる特徴をもった患者(不顕性感染もある)の事です。スーパー・スプレッダー…

雪の練習生  多和田葉子

雪の練習生 多和田葉子 新潮社 電子書籍 三世代のホッキョクグマが語る物語は,読み始めには設定の奇妙さに戸惑った。だが,よく考えてみれば昔ばなしも童話も神話も,動物と人間が対等に交流する設定はいくらでもある。異種婚姻譚とは言えないが,異種が交…

湖の男 アーナルデュル・インドリダソン

湖の男 アーナルデュル・インドリダソン 柳沢由実子訳 創元推理文庫 電子書籍 アイスランドミステリー,インドリダソンの4冊目。過去を掘り起こす男エーレンデュル捜査官が今回追いかけるのは,干上がった湖の底で見つかった白骨死体。1970年代に湖底に捨て…

同姓同名 新津きよみ

同姓同名 新津きよみ カドカワ文庫→アドレナライズ 電子書籍 「田中緑」という名前だったら,同姓同名はたくさんいるでしょうね。Facebookで探しても何十人も出てきますもの。 結婚して「田中緑」になった女と、もうじき「田中緑」になるはずだった女が交互…

禁忌 フェルディナント・フォン・シーラッハ

禁忌 フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一 訳 創元推理文庫 電子書籍 シーラッハを『犯罪』『罪悪』『コリーニ事件』と読んできたが,本書は絶対にネタバレしてはいけないタイプの小説だと感じた。でも面白くて一気読みし,とても印象深くて,何…

青い城 モンゴメリ

青い城 モンゴメリ 谷口由美子訳 角川文庫 電子書籍 『赤毛のアン』シリーズを読んだのはもう50年~60年も前ですが,今でもよく覚えています。小中学生の頃にはアン自身の物語に引き付けられましたが,今になって面白く思い出すのはアンの周辺の人々の話です…

かわうそ堀怪談見習い  柴崎友香

かわうそ堀怪談見習い 柴崎友香 角川文庫 電子書籍 力の抜けた,いい感じの怪談。27の短い章からなる「脱力系怪談」(?)。聴き手を怖がらす意図がなく,語り手が淡々と事実を語り,出会った怖さすらそっとやり過ごしてしまう。語り手は恋愛小説家という肩…

はだかの太陽 アイザック・アシモフ

はだかの太陽 アイザック・アシモフ 小尾芙佐 訳 ハヤカワ文庫 『鋼鉄都市』の続編。地球と宇宙国家連合との関係などの世界観は前作で充分に説明されていたので,順序通りに読んだ方が物語のストーリーを楽しむことができる。 地球での宇宙人殺人事件を解決…

ずっとお城で暮らしてる シャーリイ・ジャクスン

ずっとお城で暮らしてる シャーリイ・ジャクスン 市田泉 訳 創元推理文庫 電子書籍 “あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。十八歳。姉さんのコンスタンスと暮らしている。” からはじまる一人称の語りは,美しくも悪意に満ちて歪んだ世界を描き出して…

人形 ダフネ・デュ・モーリア

人形 ダフネ・デュ・モーリア 務台夏子 訳 創元推理文庫 電子書籍 デュ・モーリアの初期短編14編。どれも短い話なので後の作品ほどの完成度はないが,その片鱗をうかがわせるものが多い。それぞれに,幻想,悲劇,喜劇,風刺,サスペンスなどの風味があって…

ザリガニの鳴くところ ディーリア・オーエンズ

ザリガニの鳴くところ ディーリア・オーエンズ 友廣純 訳 早川書房 電子書籍 圧倒的な自然の中で暮らす一人の少女カイヤの物語。評判の本をやっと読みました。長かったけれど面白かった! ノース・カロライナの東部に広がる湿地帯と潟湖,そしてその豊かな生…

私の名前はルーシー・バートン  エリザベス・ストラウト

私の名前はルーシー・バートン エリザベス・ストラウト 小川高義 訳 早川書房 電子書籍 普通の暮らしの中の断片的なエピソードを拾い上げるようにして,オリーヴ・キタリッジの長い人生を浮かび上がらせた『オリーヴ・キタリッジの生活』『オリーヴ・キタリ…

声 アーナルデュル・インドリダソン

声 アーナルデュル・インドリダソン 柳沢由実子訳 創元推理文庫 電子書籍 『湿地』『緑衣の女』に続く捜査官エーレンデュルの第三作(翻訳で)。前二作はアイスランドという見知らぬ国に対する興味に引っ張られたところがあった。人口三十五万の国とか家系図…

金の仔牛 佐藤亜紀

金の仔牛 佐藤亜紀 電子書籍 18世紀初頭のフランスで起きた金融バブル「ミシシッピ事件」を背景に,追剥,詐欺師,泥棒,胡散臭い貴族など怪しげな人々が繰り広げるマネーゲームだ。ミシシッピというほぼ実体のない会社の株券と,王立銀行が乱発する紙幣を売…

夏を殺す少女 アンドレアス・グルーバー

夏を殺す少女 アンドレアス・グルーバー 酒寄 進一 訳 創元推理文庫 電子書籍 オーストリアミステリだそうです。ほとんどの舞台はドイツ国内ですけどね。各地で起きた不審な事故死に見え隠れする少女を追うオーストリアの若い女弁護士エヴェリーンと,精神病…

戦争は女の顔をしていない スヴェトラーナ アレクシエーヴィチ

戦争は女の顔をしていない スヴェトラーナ アレクシエーヴィチ 三浦 みどり訳 岩波現代文庫 電子書籍 第二次大戦に従軍したロシアの女性たちの証言録。“証言文学”というそうだ。名もなき女性たちの生の声を紡いでいくことで,その時代を鮮明に描いている。50…

コリーニ事件  フェルディナント・フォン・シーラッハ

コリーニ事件 フェルディナント・フォン・シーラッハ 創元推理文庫 電子書籍 短編集を二冊読んで,やっとシーラッハの第三作『コリーニ事件』にたどり着いた。長さから言えば長編というより中編だが,中身がずっしりと重い大作だった。 新米弁護士のライネン…