壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

進化のからくり  千葉聡

進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語  千葉聡

講談社BLUE BACKS   Audibleと紙の本

『歌うカタツムリ』の著者による、進化学を巡るエッセイ。Audibleの聴き放題で見つけて、積んであった紙の本と並行して読みました(耳学問だけでは理解しにくい所があります)。

各章の導入部分の掴みも面白いのですが、もっと面白いのが進化生物学者たちの生態です。フィールド調査に向かう研究者達のエネルギーと、進化の謎を解きたいという彼らのあくなき好奇心に元気と笑いを貰いました。

取り上げられているトピックは以下の通り。ダーウィンフィンチ、生物の左右非対称性、左巻きのカタツムリ、カワニナの種分化、琵琶湖のカワニナの適応放散、著者が古生物学から進化学へ進化した話、ハワイ島の蜘蛛、小笠原のカタツムリ、過酷なフィールド調査、ホソウミニナの陸上進出、ホソウミニナを駆り立てるモノ、カタツムリの右巻き左巻きと種分化、ガラパゴスの陸貝。

どれも面白いトピックですが、特に興味深かったのが、カワニナの種分化と琵琶湖のカワニナの適応放散で、十数年の長きにわたった努力が日の目を見た話です。もう一つはホソウミニナの陸上進出の話で、干潟の中で海側と陸側で形態の異なるホソウミニナが種分化ではなく、実は寄生虫(二生吸虫)による生態と行動の変化だったという驚きの話です。話の展開が面白くて楽しく読ませてもらいました。

カワニナの研究者の三浦博士は物腰柔らかな礼儀正しい紳士とあり(第4章)、ホソウミニナの研究者のミウラ君は眼光鋭いコワモテな学生とありますが(第10章)、これって、たぶん同一人物ですよね。進化生物学者もまた進化しているという事でしょうか。

進化学自身もまた、進化し続けているという話は『歌うカタツムリ』に詳しく書かれていて、さらに『ダーウィンの呪い--人類が魅入られた進化学の「迷宮」』が去年出版されています。『歌うカタツムリ』で指摘されていた、海洋島のカタツムリが生物農薬として持ち込まれた捕食者が原因でほぼ絶滅したという話は、『招かれた天敵--生物多様性が生んだ夢と罠』に詳しい様です。読みたい本の中に入れておきます。