壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

青い城 モンゴメリ

青い城 モンゴメリ

谷口由美子訳 角川文庫 電子書籍

赤毛のアン』シリーズを読んだのはもう50年~60年も前ですが,今でもよく覚えています。小中学生の頃にはアン自身の物語に引き付けられましたが,今になって面白く思い出すのはアンの周辺の人々の話です。本作を読んで思い出したのは,同居する母親に束縛されて自由に外出もできない老嬢の話でした。(小学生だった私は老嬢って老女かと思っていた。)

 

『青い城』の主人公,29歳の未婚のヴァランシーは,母親ばかりか一族郎党に軽く扱われ束縛されて,言いたいことも言えないまま絶望的な毎日を送っていた。唯一の癒しは想像の中の美しい「青い城」だけ。ある時自身の余命が一年しかないことを知って決意する。「やりたくないことは,一切しないわ」。ヴァランシーは家を出て家政婦として稼ぎ,自立して自由に暮らし始める。自ら望んで行動し運命を切り開いていく姿が,ユーモラスなファンタジーとして描かれている。

 

着るものも髪型も自分の自由にできず抑圧されていた今までの鬱屈を晴らすため,ヴァランシーが手のひらを反すように一族の食事会で母親やうるさがたの親戚に反抗し,皆を辛口にやりこめる様子は小気味よくて胸がすっとしました。人間,開き直るとなんでもできるんだと。バーニイと二人で暮らす小さな島や森の風景描写は,まさにモンゴメリのものでうっとり読みました。幸せな暮らしが崩れそうになった後も,もう一度愛を取り戻しました,というハッピーエンドです。愛だけでなく,愛読書と,たくさんのお金もね。

 

面白くて一気に読みました。モンゴメリは『赤毛のアン』シリーズ以来です。翻訳が村岡花子訳に近くてアンの雰囲気そのもので,「アン」をもう一度読み返したくなりました。

ただ70歳を過ぎた老女が読むと,モンゴメリのハッピーエンドは盛り過ぎじゃないかとも思います。