湖の男 アーナルデュル・インドリダソン
アイスランドミステリー,インドリダソンの4冊目。過去を掘り起こす男エーレンデュル捜査官が今回追いかけるのは,干上がった湖の底で見つかった白骨死体。1970年代に湖底に捨てられたらしく,わずかな手がかりしかなくて捜査は遅々として進まない。
一方1950年代にアイスランドから東ドイツのライプツィヒに留学した学生たちの様子がトーマスという男の回想として語られている。社会主義思想に燃えた若者が東ドイツの現実の中で押しつぶされていくありさまには胸が痛む。夢破れ,恋人を失い,哀しみから抜け出せないトーマス。
湖の白骨の重石になっていたのがソ連製の無線機であったことから,冷戦時代にさかのぼって捜査が進められるが,実際に国外に出るのではなく外交筋に聞き込みに行くだけなので得られる情報はごく少ない。エーレンデュルは些末な証拠である古い車(フォードファルコン)を追いかけている。
エーレンデュルもその部下の二人もそれぞれに事情を抱えていて捜査活動は停滞気味だ。部下のシグルデュル゠オーリは聞き込み先で政治的信条を述べて議論を吹きかけ,エーレンデュル自身も相手に皮肉を言うので協力してもらえない。
それでも読み続ける原動力は,トーマスの回想に登場する誰が被害者で誰が加害者なのか,どこで過去と現在が繋がるのか,という謎である。後半から一気に面白くなって最後にたどり着いた。あの古い車は大事な証拠につながった。(なぜかエーレンデュルはその車を購入して運転しているし…)
捜査官たちのその後が気になって,インドリダソンを追いかけています。次の『厳寒の町』『印 サイン』は電子書籍が半額くらいになったら読もう。