くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女 ホフマン
大島かおり訳 光文社古典新訳文庫 Kindle Unlimited
クリスマスといえば『くるみ割り人形』が定番です。3年ぶりに来日しているウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)の今年の演目はチャイコフスキーの作品ではないそうです。ロシア人作曲家の作品はしないという意向で,チャイコフスキーだって不本意でしょうね。演目は『ドン・キホーテ』だって。
高価な舞台には行けませんが,今は動画で(解像度は低いけど)いくらでも楽しめます
2020年のウクライナ国立バレエ団のくるみ割り人形の全編です。
こんな美しいものを壊してはいけませんね。平和を願いながら見終わりました。
そして,このバレエの原作とされるE.T.A.ホフマンの『くるみ割り人形とねずみの王さま』を読みました。
『くるみ割り人形とねずみの王さま』
セリフのないバレエ作品は比較的単純化されたストーリーで,ホフマンの原作をデュマがリライトしたものです。原作の方はいかにもホフマンらしく,現実と幻想の間に明確な境目がなく,いかにも怪しげな感じです。自動人形が出てきたり,ホフマンの別の小説『砂男』の登場人物を思わせる所もあります。子供向きのメルヘンという括りには納まりきらず,言葉の裏に何かが隠されているものは,読み手によってどのようにでも解釈できるものなのかもしれません。でも,いろいろ考えずに,美しいバレエのシーンを思い出しながら読むのが楽しい。
『ブランビラ王女』
ジャック・カロの戯画に着想を得た,カプリッチョ(綺想曲)だそうです。メルヘンでもなければ,小説でもない,複雑な構成をもった「喜劇」に頭がクラクラします。ローマのカーニバルが舞台で,主人公は貧しいお針子と三文役者のカップルです。しかし,この二人は,夢の中の,幻想の中の王女と王子,舞台上の,そして語られる物語の中の王女と王子と重なり合って,収拾がつきません。読んでいて混乱します。ドッペルゲンガーだけでは足りない!
カプリッチョの自由な変奏はとどまるところを知らず,幻想,仮想,仮装,変奏,変装を繰り返して進行するオペラのようです。作曲家でもあったホフマンはオペラを意識していたに違いありません。後世には他の作曲家によってオペラ化されたそうです。今なら,アニメ化や実写CGで表現して欲しい,イメージ豊かな作品でした。