壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

海外文学

未完の肖像  アガサ・クリスティー

未完の肖像 アガサ・クリスティー 中村妙子訳 クリスティー文庫 電子書籍 クリスティーの作品には、メアリ・ウェストマコット名義のロマンス小説が六冊あります。以前読んだ『春にして君を離れ』がとても面白かったので、半額セールで買っておいた本です。長…

火星の人  アンディ・ウィアー

火星の人(上・下) アンディ・ウィアー 小野田和子訳 ハヤカワ文庫SF 電子書籍 これまで読んできた私的【火星】シリーズは、ある程度のテラフォーミングがなされて、人類が火星に居住した時期を描いたものだったが、本書は火星開拓史のごく初期に起きた事件…

神のいない世界の歩き方  リチャード ドーキンス

神のいない世界の歩き方 「科学的思考」入門 リチャード ドーキンス 大田 直子訳 ハヤカワ文庫NF 電子書籍 ドーキンスの15年ほど前の著書『神は妄想である -宗教との決別』のダイジェスト版ともいえる内容でした。第一部ではキリスト教の正典である聖書は、…

誘拐の日 チョン ヘヨン

誘拐の日 チョン ヘヨン 米津篤八訳 ハーパーBOOKS 電子書籍 エンタメ系の韓国ユーモアミステリでした。病気の娘の治療費のために富豪の娘を誘拐した気弱でお人よしの男と、誘拐された11歳の天才少女が次第に心を通わせていくのが読み所でした。殺人事…

別れの色彩  ベルンハルト・シュリンク

別れの色彩 ベルンハルト・シュリンク 松永美穂訳 新潮クレストブックス 電子書籍 人生の黄昏を迎えた頃に、過去の出会いと別れの記憶が甦ってくる。年齢を重ねてから振り返る過去は、当時とは別の色彩を感じさせるのだ。9つの短編がそれぞれに、老境にある…

統合失調症の一族  ロバート・コルカー

統合失調症の一族 遺伝か、環境か ロバート・コルカー 柴田裕之訳 早川書房 電子書籍 20世紀半ばから現在までの、12人の兄弟姉妹のうち6人が統合失調症を発症した家族のファミリーヒストリーと統合失調症の研究史を重ねたノンフィクション。 コロラドに住む…

ハイ・ライズ   J・G・バラード

ハイ・ライズ J・G・バラード 村上 博基 訳 創元SF文庫 電子書籍 前冊のマンション繋がりで………タワマン文学というのがあるそうだが、1975年に書かれたバラードの『ハイ・ライズ』は元祖タワマンSF小説だろう。 ロンドン郊外の40階建ての新築高層マンショ…

サハマンション   チョ・ナムジュ

サハマンション チョ・ナムジュ 斎藤真理子訳 筑摩書房 電子書籍 韓国に寄ってみました。フェミニズム小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者、チョ・ナムジュの二冊目は『サハマンション』。 極端な格差社会の中で、ライフラインもおぼつかない、荒廃した…

モーリス  E・M・フォースター

モーリス E・M・フォースター 加賀山卓朗 訳 光文社古典新訳文庫 電子書籍 フォースターが生前には出版できなかったといういわくつきの本です。『ハワーズ・エンド』『眺めのいい部屋』で主題だった、20世紀初頭のイギリスの中流階級の人間模様という点には…

霧に橋を架ける   キジ・ジョンスン

霧に橋を架ける キジ・ジョンスン 三角和代 訳 創元SF文庫 電子書籍 表題作の「霧に橋を架ける」は、ストーリー性があって読みやすかった。 腐食性の霧が流れる巨大な川によって、帝国は分断されていた。吊り橋の設計責任者であるキット・マイネンは、帝国…

三つのおとぎばなし リュドミラ・ウリツカヤ

三つのおとぎばなし リュドミラ・ウリツカヤ スヴェトラーナ・フィリッポワ イラスト 沼野恭子 訳 小学館世界J文学館 Kindle 小学館世界J文学館の中の一冊です。『小学館世界J文学館』という大型絵本(5500円)を買うと、QRコードから125冊の電子書籍が読…

破果   ク ビョンモ

破果 ク ビョンモ 小山内園子 訳 岩波書店 Kindle Unlimited 爪角(チョガク)という名の65歳の女性は、「防疫」という仕事を45年間続けてきた。つまり爪角は凄腕の「殺し屋」として生きてきたのだ。見かけは小柄な老女も実は筋骨たくましく、依頼されて「防…

ベイカー街の女たちと幽霊少年団  ミシェル・バークビイ

ベイカー街の女たちと幽霊少年団 ミセス・ハドスンとメアリー・ワトスンの事件簿2 ミシェル・バークビイ 駒月 雅子訳 角川文庫 Kindle Unlimited シャーロック・ホームズの公式パスティーシュとして、ミセス・ハドスンが語る『ベイカー街の女たち』の二作目…

シャーロック・ホームズの誤謬  ピエール・バイヤール / バスカヴィル家の犬 コナン・ドイル

シャーロック・ホームズの誤謬 『バスカヴィル家の犬』再考 ピエール・バイヤール 平岡敦 訳 創元ライブラリ Kindle版 バスカヴィル家の犬 【新訳版】 アーサー・コナン・ドイル 深町眞理子訳 創元推理文庫 Kindle版 『アクロイドを殺したのはだれか』で、ク…

自転車泥棒  呉 明益

自転車泥棒 呉 明益 天野健太郎 訳 文春文庫 電子書籍 『歩道橋の魔術師』のノスタルジーを求めて読み始めたのだが、いい意味で裏切られた。 かつて台北市にあった「中華商場」で育った「ぼく」の父は、20年前に自転車と共に失踪した。「ぼく」は古い自転車…

82年生まれ、キム・ジヨン  チョ・ナムジュ

82年生まれ、キム・ジヨン チョ・ナムジュ 斎藤真理子訳 ちくま文庫 Kindle版 2016年に韓国で出版され大ベストセラーになったという。邦訳もベストセラーとして話題になった本が文庫化され、やっと読むことが出来てよかった。 1982年生まれのキム・ジヨンと…

三体 Ⅰ  劉 慈欣

三体 Ⅰ 劉 慈欣 早川書房 電子書籍 少し前に話題になった中国SFをやっと読み始めた。いわゆるファースト・コンタクト物だった。世界で大ベストセラーと聞いていたのだが、SFとしては正統派でひねりのない単純明快な筋立てだ。科学ネタがたっぷり仕込まれて…

湖畔荘(上/下) ケイト・モートン

湖畔荘(上/下) ケイト・モートン 青木純子 訳 創元推理文庫 電子書籍 ケイト・モートンのデビュー作『リヴァトン館』では,英国のお屋敷での70年前の未解決の事件が,95歳の元メイドの視点で語られていました。過去と現在を行ったり来たりしながら,緻密…

批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖講義  廣野由美子

批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖講義 廣野由美子 中公新書 電子書籍 『フランケンシュタイン』を読み終わって,モヤモヤしている所でこの本を見つけた。小説の技法と批評理論を解説するために,実例として『フランケンシュタイン』を徹底的に解剖…

償いの雪が降る アレン・エスケンス

償いの雪が降る アレン・エスケンス 務台夏子 訳 創元推理文庫 電子書籍 邦題の『償いの雪が降る』という題名からハードボイルドを想像していたのは,間違いでした。センチメンタルといってもいいほどで,ジョー・タルバートという若者の純粋で一生懸命なボ…

ブラックサマーの殺人  M W クレイヴン

ブラックサマーの殺人 M W クレイヴン 東野さやか 訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 ワシントン・ポーの二作目も面白かった。冒頭,高級レストランでポー部長刑事が逮捕される場面から始まり,何事が起きていたのかとわくわくさせられる。 6年前に三ツ星レストラ…

ねじの回転 ヘンリー・ジェイムズ

ねじの回転 ジェイムズ 光文社古典新訳文庫 土屋政雄 訳 Kindle Unlimited 2012/9 ねじの回転 ヘンリー・ジェイムズ 新潮文庫 小川高義 訳 Kindle版 2017/9 一人称の物語で思い出したのがヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』。読み終わった『むらさきのス…

むらさきのスカートの女  今村夏子

むらさきのスカートの女 今村夏子 朝日文庫 電子書籍 芥川賞受賞作。中編で読みやすくて話の展開が面白く,ひねったユーモアがあった。「わたし」が語る「むらさきのスカートの女」。「信頼できない語り手」によるミステリアスな雰囲気があって,騙されたよ…

バージェス家の出来事 エリザベス・ストラウト

バージェス家の出来事 エリザベス・ストラウト 小川高義 訳 早川書房 電子書籍 バージェス家はメイン州の小さな町にある貧しい白人の家だった。ジムとボブの兄弟二人はニューヨークに出て成功し,司法関係の仕事をしている。ボブと双子の妹のスージーはメイ…

風の十二方位 アーシュラ K ル・グィン

風の十二方位 アーシュラ K ル・グィン 小尾 芙佐・他 訳 ハヤカワ文庫SF 電子書籍 ル・グィンの初期短編集で,17編のバラエティに富んだ作品が収められている。あまりにも多彩なため,各作品の場面設定が分からないものが多い。著者自身のまえがきが作品ご…

多摩川物語 ドリアン助川

多摩川物語 ドリアン助川 ポプラ文庫 電子書籍 多摩川沿いに住むごく普通の人々の,誰もがみんな抱えている鬱屈,悩みをそっと拾い上げて,ちょっとだけ救ってくれる,切なくて心温まる8つの連作短編です。わかりやすい言葉で繊細な感情が表現されて,気が付…

世直し小町りんりん  西條奈加

世直し小町りんりん 西條奈加 講談社文庫 Kindle Unlimited 今年最後の,お口直しに最適な,痛快というより軽快なエンターテインメント時代物です。元は『朱龍哭く 弁天観音よろず始末記』という単行本が改題されて文庫本になっています。元の題のほうが分か…

乗客ナンバー23の消失  セバスチャン・フィツェック

乗客ナンバー23の消失 セバスチャン・フィツェック 酒寄進一 訳 文春文庫 電子書籍 2020年,豪華クルーズ船はコロナの集団感染の実験場となり,その人気は失墜したかに見えました。その後,復活した船も,引退した船もあるようです。コロナさえ治まれば,や…

よこまち余話 木内昇

よこまち余話 木内昇 中公文庫 電子書籍 明治なのか大正なのか,いつの時代なのか,神社と御屋敷に挟まれた短い路地にある長屋にひっそりと住む人たちがいる。坂の多い場所なので東京の何処かかもしれない。齣江はお針子を生業としている。向かいの長屋に住…

くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女   ホフマン

くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女 ホフマン大島かおり訳 光文社古典新訳文庫 Kindle Unlimited クリスマスといえば『くるみ割り人形』が定番です。3年ぶりに来日しているウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)の今年の演目はチャイコフス…