壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

刑罰 フェルディナント・フォン・シーラッハ

刑罰 フェルディナント・フォン・シーラッハ

酒寄進一訳 創元推理文庫 電子書籍

犯罪』『罪悪』に続く,12編の短編。『犯罪』は罪を犯さざるを得なかった被告人たちの哀しみが描かれた感動作,『罪悪』は描く観点が全く異なり居心地の悪い感じで読み終えた。本作『刑罰』は法では裁くことのできない人間の闇が描かれている。ミステリとして読むことはできない。読み終えても疑問が増すばかりで,この世の不条理に直面して戸惑うばかりだ。

事実だけを淡々と積み上げて人物の内面の感情を語らない手法は,読者をして,登場人物の内面に深く踏み込ませる。ごく短い短編なのに,登場人物の半生を察して,なんでこんなに感情を揺さぶられるのだろうか。

 

下にメモを取ってみたが,書いてみたら面白くなくなってしまって残念。

「参審員」裁判員として初めて法廷に接したカタリーナの苦悩。こんな悲惨な事件でも,任期のある参審員はどうしようもないのか。

「逆さ」自分が弁護して無罪にした男が再び罪を犯し,酒浸りになった弁護士が扱う殺人事件。夫殺しの妻は無実なのか。意外な証拠が明らかになる。

「青く晴れた日」乳児殺しの罪で服役し,夫殺しで無罪となった母親の真実。罪なき罰と罰なき罪。

「リュディア」離婚して寂しい男が買ったラブドールを辱めた隣人への復讐はどう裁かれるのか。

「隣人」隣人の妻に亡き妻の面影をみた初老の男が,ふと犯した罪はどう裁かれるのか。

「小男」飲酒運転と自動車事故と麻薬所持を犯した男が一事不再理によってどう裁かれたのか。

「ダイバー」自殺した夫の性癖を恥じて,事実を隠した妻の罪は何なのか。復活祭の次の日に妻は救われたのだろうか。

「臭い魚」少年たちの肝試しの対象になった老人への暴力。起訴されなかった少年たちは,どういう思いを抱えて成長したのだろうか。

「湖畔邸」祖父との思い出の残る屋敷で穏やかに余生を送るはずだった男の罪は,法で裁かれなかったが

「奉仕活動」トルコ移民の娘セイマは弁護士となって初めての公判で弁護することになったのは,女性の敵というべき悪人。罪が法で裁けないことの,彼女のやるせなさと職務に対する覚悟がよく伝わってくる。

「テニス」夫の不実を知った妻。真珠の首飾りの女には,罪も罰もないのか。

「友人」少年時代の親友は成功者だったが,あるとき薬物依存で身を持ち崩した。愛する妻の死の遠因が自分にあると,罪は犯していないが自分自身を罰する悔恨の日々は死ぬまで終わらない。

 

シーラッハは5冊目になる。『テロ』が読みたいが文庫本がでたら読もう。