壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

金の仔牛 佐藤亜紀

金の仔牛 佐藤亜紀

電子書籍

18世紀初頭のフランスで起きた金融バブル「ミシシッピ事件」を背景に,追剥,詐欺師,泥棒,胡散臭い貴族など怪しげな人々が繰り広げるマネーゲームだ。ミシシッピというほぼ実体のない会社の株券と,王立銀行が乱発する紙幣を売買しながら,株式市場は異様に盛り上がっていく。追剥だったアルノーは一躍大金持ちになりニコルという可愛い娘も手に入れたが,同時に命のやり取りをする羽目になる。バブルがいつはじけるのか,アルノーとニコルは勝ち逃げできるのか,手に汗握るスリリングな展開だ。

ニコルは,アルノーの危なげな仕手戦(?)を心配して裏でリスクヘッジ(?)をしていたってことでいいのかな。株を持ったことがないので金融システムのことが全く分からないけれど,スピード感のある文体にノせられて読み切ってしまった。大金を目の前にして,欲望に火が付いた人間たちの人間模様,誰が味方か敵なのか,一癖も二癖もある人たちの騙し合い,紙幣も株券もただの紙に過ぎないものがどんどん高値を付けていく不思議がわかったような気にさせられてしまう。最後の著者の「覚書」でこのバブルを意図的に煽っていた金融政策のからくりを読んだが,残念ながら理解できたわけではなかった。

かつて,佐藤亜紀さんの小説をフォローしていたはずなのに,10年間全く追いついていなかった。『黄金列車』は読んだけど,『吸血鬼』『スイングしなけりゃ意味がない』『喜べ 幸いなる魂よ』は未読。独自出版で電子書籍が安くなっているものから読もうか。