壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

戦争は女の顔をしていない スヴェトラーナ アレクシエーヴィチ

戦争は女の顔をしていない  スヴェトラーナ アレクシエーヴィチ

三浦 みどり訳  岩波現代文庫 電子書籍

第二次大戦に従軍したロシアの女性たちの証言録。“証言文学”というそうだ。名もなき女性たちの生の声を紡いでいくことで,その時代を鮮明に描いている。500人に及ぶその女性たちの「声」は涙なしには読めなかった。10代後半から20代前半の女たちの従軍のきっかけは徴集よりも志願だったが,差別的な周囲の目を恐れて,過酷な戦場での経験を戦後にも語らなかったという。

男たちが語りたがるのは戦争の事実で,時として美化された記憶かもしれない。スヴェトラーナ アレクシエーヴィチが丹念に聞き出して,女たちがやっとのことで語るのは,その時にどう思ったのかという真実の感情なのだ。女たちの感情の記憶の集合体が戦争の全体像を立ち上がらせてくれるが,同時に戦争に直面した人間の得体のしれない部分を感じて,混沌とした思いに引きずり込まれるようだった。

端切れをつなぎ合わせてできるパッチワークのように全体の模様が見えてくるけれども,ずっと見つめているうちに何の模様だかわからなくなってしまう,そんな感じがした。

 

スヴェトラーナ アレクシエーヴィチは,ノーベル文学賞を受賞するまで聞いたことがない作家だった。「チェルノブイリの祈り」はすぐに読んだが,ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに思い出したのが「戦争は女の顔をしていない」だった。読み始めてから,数か月間本を読めない時期があったのだが,再開して一気に読了した。