壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

走れ、走って逃げろ  ウーリー・オルレブ

走れ、走って逃げろ ウーリー・オルレブ

母袋夏生 訳 岩波少年文庫 Kindle Unlimited

ワルシャワのゲットーから貨車に乗せられて,多くのユダヤ人が絶滅収容所に送られていた頃のことです。ポーランドユダヤ人の8歳の少年スルリックは,ゲットーから逃げ出し家族とはぐれてしまいます。森の中で暮らし,農村で農作業を手伝いながらも,過酷な放浪を続けます。ユダヤ人であることを隠すために,ユレクと名前を変え,キリスト教徒の祈りを唱え,次第に自分の本当の名前さえ忘れます。でも,別れ際に父さんに言われた「ユダヤ人だという事だけは忘れるな」という言葉は覚えていました。カトリック教会での告解式で「ユダヤ人であることは罪なのだろうか」と悩みます。

農作業で片手を失いましたが,それでも善意ある人々に出会い,前を向いて生き延びようとするユレクの姿が,感情を抑えた表現で描かれています。死と隣り合わせの恐怖をはねのける少年の勇気を感じ,なんとか涙せずに読み終えました。

実在の人物の経験談を基に書かれた物語で,著者のウーリー・オルレブ自身も強制収容所を体験したユダヤ人です。

 

本書は映画「ふたつの名前を持つ少年」の原作として出版されたそうです。本書を読み終わった後すぐに,映画も見ました。少年が冬の森の中で凍えそうな様子を見るのがつらかったです。ポーランドウクライナの隣国です。暖房の無い冬をウクライナの子供たちがどんな風に過ごしているかを考えて心が痛みました。原作にはない言葉が映画にありました。ソ連軍がドイツを追い払ったと終戦を祝うポーランド人達に,隠れ住んでいたユダヤ人の男性が,「ソ連もドイツもそんなに変わらんぞ」と言っています。

 

岩波少年文庫は71歳の私とほぼ同じ歳です。21世紀になる直前に『岩波少年文庫の50年』が出版されています。(『70年のあゆみ』もありました。)

私が小学生の頃は,今ほど自由に本が読める時代ではなかったと思います。学校の図書室は自由には入れる所ではなく,学級文庫にわずかな本が置かれていました。本の虫だった私は,月に一冊だけ岩波の児童書を親に買って貰いましたが,それでは足りずに家にある大人の本も読み漁っていました。娘たちが小学生の頃には,子供のためと称してこの文庫をたくさん大人買いし,子供の頃に読みたかったなという本を大人になってたくさん読みました。今でも新刊が出て,電子書籍でも復刊されています。読みたい本をたくさん見つけました。