壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

おいしいご飯が食べられますように 高瀬隼子

おいしいご飯が食べられますように 高瀬隼子

講談社     Audible

二回目のお試し期間で聴いたオーディオブックです。ありふれて見えた人間関係が実にスリリングでした。小さな営業所の会社員たちの食事事情は「サラメシ」風ですが、お仕事小説ともグルメ小説とも恋愛小説とも一味違う、人間関係を深堀した小説です。

仕事が出来ないけれど、か弱くてかわいくて、周囲の人間の保護者意識を掻き立てる芦川が第一の人物です。芦川の視点は小説の中に一つも出てこないのですが、自分が対応できないタスクを避けるように体調不良で早退したのに、次の日にお礼と称して手の込んだお菓子を焼いて皆に配るというような女性です。その芦川と付き合っているのが二谷で、仕事ができてクールに見えるけれど、美味しい食べ物に複雑な嫌悪感を持っているので、芦川の手料理に密かに閉口しています。後輩の社員の押尾は体育会系女子ですが、早退した芦川の仕事の穴埋めを残業してやらざるを得ず、芦川に反感を持ちますが、二谷には好意を持っているので、二谷にある提案を持ち込みます。

小さな営業所内の長時間労働、配慮義務、同調圧力を背景にして、三人の屈折した関係が面白く描かれています。この三人に、共感と反感の両方を同時に持ちながら、複雑な思いで読みました(聴きました)。ほんとうは字で読みたかったけれど、芥川賞受賞作は値段が高いままです。