壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ずっとお城で暮らしてる シャーリイ・ジャクスン

ずっとお城で暮らしてる シャーリイ・ジャクスン

市田泉 訳  創元推理文庫  電子書籍

“あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。十八歳。姉さんのコンスタンスと暮らしている。”  からはじまる一人称の語りは,美しくも悪意に満ちて歪んだ世界を描き出している。惨劇のあった資産家一家の生き残りとして村人から排除され,ひきこもるように暮らす姉妹と認知症(?)の叔父の生活は一見して平穏で楽園のようでもある。でもやはりおかしい。メアリ・キャサリン(メリキャット)の言動は18歳という年齢よりずっと幼く夢見がちで,ちょっと壊れてる。10歳ほど年上の姉コンスタンスが妹を見る目線も幼児を扱うようだ。

読んでいるうちに,村人たちのむき出しの悪意と,途中から同居する従兄チャールズの怪しげな意図に心騒ぎ,ついメリキャットの味方をしたくなる。事件が何だったのか不確定なことも多い。村人の方から見たら,幹線道路への便利な近道を囲い込み,凄惨な事件を起こしたとされる魔女じみた一家に対する敵意もまた理由のないものではない。ある事故をきっかけに村人の敵意が爆発するところは相当怖い。崩壊した楽園で世間と隔絶した暮らしを選ぶ姉妹に未来があるとは思えないのだが。

 

一日で読了したが,スッキリしない終わり方で,何か気になる作品だ。映画化されているが見るかどうか思案中。レンタルで400円は迷う。前回読んだダフネ・デュ・モーリアの作品を閉じた時に,Kindleにお薦められて読んだ初めての著者の作品。サイコホラーというような大雑把な括りなのかもしれないが,私には全く異質に感じる。