声 アーナルデュル・インドリダソン
『湿地』『緑衣の女』に続く捜査官エーレンデュルの第三作(翻訳で)。前二作はアイスランドという見知らぬ国に対する興味に引っ張られたところがあった。人口三十五万の国とか家系図と遺伝子情報が整備された国だとか。三作目ともなるとエーレンデュルと部下たち,その家族とも顔なじみになっていて読みやすかった。
クリスマスを前にして観光客で賑わう高級ホテルでドアマンがサンタクロースの扮装で刺殺されたというキャッチーな始まりだが,五日前からクリスマスイブに向けたアドベントカレンダーをめくるように,エーレンデュルの捜査は過去の事件や自身の思いに何度も立ち止まって行ったり来たりとジリジリさせられ,五日間が待ち遠しかった。
ボーイソプラノのスターであった被害者グドロイグルのと哀しい過去と家族との軋轢,現在捜査中の児童虐待事件の行方,エーレンデュルのこども時代の忘れられない過去と現在の家族関係などが重なり合って,物語は重苦しく進んでいく。意外な犯人ではあったが事件はトリッキーなものではなく,家族に対する複雑な思いがやるせない。
娘エヴァとやっと向き合うことができそうなエーレンデュルだが,次作でどうなるのか,次作『湖の男』を買ってあったので,忘れないうちにまたいつか読もう。