壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

みんなが手話で話した島 ノーラ・エレン・グロース

みんなが手話で話した島 ノーラ・エレン・グロース

佐野正信 訳 ハヤカワ文庫NF 電子書籍

ニューヨーク・ロングアイランドの東,ボストンの南にあるマーサズ・ヴィンヤード島には,20世紀の初めまで,多くの聾者が住んでいました。ヴィンヤード島の人々は健聴者も聾者も手話を使って分け隔てなく暮らしていて,聾を障害(ハンディキャップ)とみなしていなかったそうです。この島の聾者たちが社会的な不利益(ハンディキャップ)を負わされてはいなかったという事です。

著者で人類学者のノーラ・エレン・グロースは,島の古老たちへの丁寧なインタヴューと多数の文書記録を通して,イングランドからの初期の移民がもたらした遺伝的な聾が婚姻を通じて小さな島の集団に広がっていったことを社会学的な手法で詳細に明らかにしています。

さらに,島で暮らしていた聾者たちの日常を生き生きと再現しています。ヴィンヤード島では,200年以上にわたり健聴者が手話を覚え、日常生活で使っていました。島の健聴の子供たちは、英語と手話という2つの言語をつかうバイリンガルとして育ったそうです。聾が障害とならない共同体では,婚姻も職業も収入も健聴者と聾者の間に差がなく,19世紀にアメリカ本土に聾学校ができてからは,その学校に寄宿していた子の方がかえって教育水準が高かったといいます。

“障害のある人にとっての困難は、必ずしも心身機能そのものに由来するだけでなく、障害のある人のことを考慮していない社会のしくみや環境によってももたらされている”という事から障害とはなにか,共生とはなにかを深く考えさせてくれる本でした。

15年以上もまえに読んだオリバー・サックス手話の世界へ』の中にこの本への言及があったことを思い出し,確認しました。(佐野正信という同じ訳者で,このかたも当事者のようです。)『手話の世界へ』を読み返そうとしましたが,字が小さすぎてギブアップしました。

 

で……手話の事を検索していたら,今評判の「Silent」というフジテレビのドラマに行き当たり,見逃し配信で全部見て😢。ちょっと古めかしい感じの恋愛ドラマで,冬ソナファンのおばちゃん(今や,ばあちゃん)たちに評判がいいのもわかるわ~。手話ができないとき筆談の代わりに,スマホのSpeech to Textを使っていて便利!と思ったけれど,これは健聴者の一方的な便利さですね。