壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

シネマコンプレックス 畑野智美

シネマコンプレックス 畑野智美

光文社文庫  電子書籍

東京近郊の地方都市にあるシネコンで働く人々を描く連作7編。描かれるのはあるクリスマスイブの一日の出来事で,各編の語り手がそれぞれ違う持ち場で働く7人です。アルバイトやパートがたくさん働くシネコンという職場の様子が詳しく書き込まれていて,仕事の喜びや苦労がよく伝わってきました。また,視点が違うと人物評価がガラッと変わってしまう面白さも味わいました。嫌味な上司と思う人もいれば,思いやりのある上司と考える人もいます。

五年前にシネコンで「何か」があったという噂話が,全編を通して謎を引っ張っていきます。そして,仕事ばかりでなくそれぞれの語り手の人生にもそっと踏み込んでいて,彼らの明日を思い遣る気持ちになりました。

著者の「あとがき」に,“シネコンで一年半,アルバイトのオープニングスタッフとして働いた経験をこの小説に詰め込んだ”とありました。仕事の日常がリアルに伝わってきたことに納得しました。

翌年にシネコンが全館改装されて券売所が券売機に変わりフィルムがデジタル化され,シネコンの仕事は大きく変わることが予告され,主人公たちの人間関係も変わりそう……という所で終わりました。

 

コロナ禍で映画館も大きく変わったのではないでしょうか。私が映画を最後に見たのは,2020年の冬,コロナが中国で騒がれ始めたころです。流行が日本に来たら映画に行けなくなるのでは?とカンヌで評判になった『パラサイト』を急いで見に行きました(シネコンではなく単館でしたが)。

あれ以来,映画館には足を運んでいません。見たい映画も少し経てば動画配信されるような時代になってしまいました。でもやはり大画面で見たいFSXがあります。小説で読んで音楽を聴きたかった『蜜蜂と遠雷』の大音量の音楽にカタルシスを感じました。GO TO CINEMA というような支援はないのかしらね。私はシニア割引で充分に安いのだけれど。