壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

乗客ナンバー23の消失  セバスチャン・フィツェック

乗客ナンバー23の消失  セバスチャン・フィツェック

酒寄進一 訳  文春文庫  電子書籍

2020年,豪華クルーズ船はコロナの集団感染の実験場となり,その人気は失墜したかに見えました。その後,復活した船も,引退した船もあるようです。コロナさえ治まれば,やはりあこがれの航路なのでしょうね。本書は,コロナ以前の豪華客船が舞台のミステリです。

 

〈海のスルタン〉号という豪華客船で母子が消えるという事件が起きる。探偵役は,かつてこの船で妻子を失った捜査官マルティン・シュヴァルツ。航行中の客船は非常に大きな密室ではあるが,乗客3000人にクルーも数千人で船自体が町のようなものだ。船内は入り組んでいて,見取り図なんかないので,読んでいてもどこがどうなっているのやら,さっぱりわからない。登場人物はそれほど多くないが,誰もが怪しげで秘密を持っているらしい。読んでいるうちに何度も予想を裏切られ,次の展開に唖然とする。

 

根底にある事件は,○○への虐待という不愉快なものですが,最後はそれなりの「救い」があってよかったと思います。でもこの種類の題材を扱うミステリを読むといつも戸惑ってしまうのです。不愉快さを持ちながら,ミステリの謎解きに惹かれ,乱読する自分の矛盾をどうしたものか悩みます。