壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

湖畔荘(上/下) ケイト・モートン

湖畔荘(上/下) ケイト・モートン

青木純子 訳 創元推理文庫 電子書籍

ケイト・モートンのデビュー作『リヴァトン館』では,英国のお屋敷での70年前の未解決の事件が,95歳の元メイドの視点で語られていました。過去と現在を行ったり来たりしながら,緻密に構成されたストーリーが進行して,隠された真相が少しずつ明らかになるというところが見事だったと記憶しています。その後『忘れられた花園』『秘密』と,同じような趣旨の小説が出版されていました。どちらもゴシックロマンなのか,少女小説風のテイストなのかと,なんとなく避けて,読まずにいたのですが,翻訳4作目『湖畔荘(上・下)』の半額につられて読みました。面白い!!! もう夢中で上下600頁を読み切りました。

 

2003年,ロンドン警視庁の女刑事セイディは担当した行方不明事件で,個人的感情から捜査に行き過ぎがあって謹慎中の身です。コーンウォールの祖父の家に滞在していたセイディは森の中で無人のお屋敷を見つけました。1930年代におきた男児の行方不明事件の舞台でした。ミッドサマー・パーティの夜に育児室から姿を消した11カ月のセオは,懸命の捜索にもかかわらず不明のままです。お屋敷「湖畔荘」の現在の持ち主は,85歳の有名なミステリ作家アリス・エダヴェイン,セオの次姉にあたります。事件当時15歳だったアリスに事情を聴くため,セイディは真相を探ろうとアリスに手紙を書きます。最初は完全に無視されるのですが…

 

時代は1911年第一次世界大戦の前から始まり,事件のあった1933年の夏,そして現在の2003年,場所はコーンウォールとロンドンと,時代と場所を往還しながら,物語が進んでいきます。読みやすい文章なのに,情報が小出しにされるので油断がなりません。いくつもの秘密が隠れていて,章が替わるごとに秘密に引っ張られるので,読むのをやめられませんでした。ミステリ的要素は強いのですが,戦争の災禍と時代の変化に翻弄された家族の物語,そして世代を超えて葛藤する母と子の物語でもありました。最後の最後,すべてが明らかになったとき,読んでいて鳥肌が立ちました,と同時に涙ぐむほどの感動を覚えたのです。

未読の『忘れられた花園』と『秘密』をいつか読もうと思います。ただ,テイストの似ている作品なので,続けて読むと感動が薄れそうです。もう少し後で,でも本の読めるうちに。