壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

三体 Ⅰ  劉 慈欣

三体 Ⅰ  劉 慈欣

早川書房  電子書籍

少し前に話題になった中国SFをやっと読み始めた。いわゆるファースト・コンタクト物だった。世界で大ベストセラーと聞いていたのだが、SFとしては正統派でひねりのない単純明快な筋立てだ。科学ネタがたっぷり仕込まれてはいるが、ハードSFではない。むしろそれを装ったおバカSFという雰囲気がある。エンタメ要素が強くて楽しく読めた。

環境問題にも触れられているが、シリアスな扱いではない。「木を植えた男」みたいなマイク・エヴァンスが絶望の末に「種の共産主義」を信奉する狂信的な環境論者になったことが、皮肉に描かれている。地球環境を優先させると、人類は排除すべき第一要因だものね。ナノワイヤーの使い方がすごい(笑)。6万トンの豪華客船がミルフィーユ!

「三体」というVRゲームも面白い。三体世界を中国古代史に置きかえて説明しているのがすごい。圧倒的な映像が喚起される。大昔だったら「夢落ち」、現代なら「ゲーム落ち」というところだろうか。

出版される書籍について、中国当局(?)がどれくらい検閲をしているのか全く知らないが、冒頭の文革時代の凄惨な場面が触りにならなかったのかと思った。その時の葉文潔(天体物理学者)の絶望がこの話のきっかけとなったので、この場面は欠かせないだろう。

しかしそれ以外は、これから宇宙開発に向かい、環境意識高い系になりたい習近平中国のお眼鏡に適うように、賢く注意深く描かれているにちがいない(笑)。葉文潔が三体世界に向かって送信したメッセージ「…地球文明をひとつの美しい未来にすべく…このメッセージを送信した国家はその努力に加わっています…それぞれの人類のメンバーの労働と価値がすべてじゅうぶんに尊重され…」に、著者の隠れた皮肉が盛り込まれていると感じたのは私だけだろうか。

今後第Ⅱ、Ⅲ巻と、地球外知的生命体である三体人との闘いが、NATO軍などを巻き込んで中国中心に行われていくらしい。でも、地球側が一枚岩とはいかないだろう。映画『インデペンデンス・デイ』では、エイリアンとの闘いがアメリカ中心に都合よく、世界が一致団結して行われていたのを思い出した。

白髪三千丈の伝統を受け継ぐ、荒唐無稽な大風呂敷に包まれてみようか。少し前に、マイナポイント活用して、電子版全六巻をさらに六割引きで手に入れた。続けて読むには大部すぎるのでゆっくり読んでいこう。

Netflixでドラマ化されるそうだ。『ゲーム・オブ・スローンズ』のスタッフが加わるらしく、期待が持てる。「三体」ゲーム場面は映像でも見たい。脱水して苛烈な環境変化を生き延びる、三体人という謎の知的生命体にも会ってみたいわ(笑)。