壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

償いの雪が降る アレン・エスケンス

償いの雪が降る アレン・エスケンス

務台夏子 訳 創元推理文庫  電子書籍

邦題の『償いの雪が降る』という題名からハードボイルドを想像していたのは,間違いでした。センチメンタルといってもいいほどで,ジョー・タルバートという若者の純粋で一生懸命なボーイ・ミーツ・ワールドが描かれています。ミステリの要素以上に人物描写に惹かれ,一気に読み終えました。

家庭的に恵まれないジョーですが,努力して大学に進学し文学コースの課題で身近な年長者の伝記を書くことになりました。ジョーが老人ホームで出会ったのは,かつて少女暴行殺人の罪で服役していた末期がんの老人で,短い余命のために仮釈放されて寝たきりの状態でした。老人へのインタヴューを重ねベトナム戦争での体験を聞き取るうちに信頼関係を築き,ジョーは冤罪事件ではないかと思い始めます。

下宿の隣に住む女子学生のライラと共に,裁判記録を調べ30年前の真実を明らかにしていく過程が巧みでした。ジョーの母親の問題行動への対処,自閉症の弟の世話,大学の授業,アルバイトをこなしながら,若さで突っ走っていきます。ハラハラドキドキの展開の末・・・・・・。

ストーリー展開は読者の予想を裏切らないので,ミステリの結末の意外さはないのですが,面白さはそこではありません。崩壊した家庭にありながら,優しさを失わないジョー。ジョー達への思いがけないご褒美も,素直に「よかったね!」と喜んであげられました。続編も読みたい。

 

 

昨年の暮れに半額セールで買っておいた本です。続編『過ちの雨が止む』を買っておいたつもりが,間違えて半額の第三作『たとえ天が堕ちようとも』を買ったようで,残念。