壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

クララとお日さま  カズオ・イシグロ

クララとお日さま  カズオ・イシグロ

土屋政雄訳  早川書房   図書館本

移動図書館の本棚で見つけた。出版から二年近くたって、ようやく読むチャンスができた。その間、《ノーベル文学賞 受賞第一作 カズオ・イシグロ最新作、2021年3月2日(火)世界同時発売! AIロボットと少女との友情を描く感動作。》という宣伝文句だけは目にしたが、なるべくネタバレのないように、本の情報を読まないように今まで我慢していた。ネタバレなしに読むのが正解なので、詳しくは書かないが、以下注意。

 

AIを搭載した人型ロボットのクララが一貫して物語る。販売店を訪れた14歳の病弱な女の子ジョジーの“友人”として買われ、一家と住むことになったクララは、高い能力で、周りの状況を認知していく。

あからさまには語られない社会の状況は、言葉の端々から推測することしかできない。クララの静かな語りと物語る世界の不穏な様子から、『わたしを離さないで』を思い出した。ジョジーたちの生きる世界は、ある「処置」を受けた子供とそうでない子供の間に決定的な格差がある。そしてジョジーの別居している両親や周りの大人たちの会話から、病弱なジョジーに関する何かの計画があるらしいことがだんだんにわかってくる。

AIのクララは情緒をもち、ジョジーの為にお日さまにある願掛けをする。太陽光をエネルギーとしていくロボットのクララの願掛けには、原始的な信仰の成り立ちを見るようだ。AIは限りなく人間に近づくのか、「心」はどこにあるのか、死なないロボットの行く末は・・・と、ラストシーンまでも、心が揺さぶられるようだった。

 

カズオ・イシグロの作品は『充たされざる者』を除き全部読んだはず。分厚い文庫本を読みかけて中断したまま、本棚で色褪せて15年近く経っている。いつか読もう。