壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

悪女は自殺しない  ネレ・ノイハウス

悪女は自殺しない  ネレ・ノイハウス

酒寄進一訳  創元推理文庫

刑事オリヴァー&ピア・シリーズの第一作。気になっていたドイツミステリですが、読む順番が分からず手を出せないでいた9冊のシリーズでした。日本では第三作『深い疵』から翻訳出版されたために、順番がわかりにくいのかな。友人からシリーズをまとめて頂きました、ありがとう! どれも分厚い長編なので、ゆっくり読んでいきます。

 

2005年8月28日、フランクフルト検察局の上級検事の自殺遺体が見つかった。ついで飛び降り自殺と思われた女性の遺体も見つかったが、こちらは自殺ではないらしい。刑事警察署の主席警部オリヴァー・フォン・ボーデンシュタインと警部ピア・キルヒホフが事件を追ううち、被害者の女性イザベルの正体がだんだんわかってきた。自分の欲望を優先するとんでもない女で、周囲の人々が皆のように嫌っていたのだ。

動機を持つ容疑者が次々と現れ、複雑な人間関係が明らかとなる。同時に隠れていた数多くの犯罪が明らかになっていく。終わり近くになっても真犯人が誰かわからないまま、ゴタゴタと捜査が続く。トリッキーな描写もなく、謎解きという本格でもなく、社会性に迫る深みは少ないのだが、“普通の”ミステリとして充分面白い。

私的制裁を受けたあの事件はそのままに終わるのだろうか、警察によるそれ以上の捜査は行われないのか、疑問は残るけれど、フィクションだからまあいいか。

 

登場人物が多くて、なじみの薄いドイツ人名に悩まされました。狭い地域社会のいわばセレブたちの人間関係が濃くて複雑です。誰が誰の、夫、妻、愛人、兄弟、親子、友人なのか、もう分らない! 読むたびに人物紹介の頁をひっくり返しました。主席警部オリヴァー・フォン・ボーデンシュタインはこの地方の名家の出身で理性的な紳士と思いきや、捜査は直感に頼ることも多く、不用意に容疑者に近づいては怪我をしています。一方、夫と別居中の警部ピア・キルヒホフは若いが落ち着きのある女性で鋭い観察眼を持っています。

事件の舞台は、乗馬クラブと馬専門動物病院が中心です。乗馬というのはドイツで人気のあるスポーツなのでしょう。そういえばドイツの森林管理官が書いた本のなかにも、馬が家族の一員として扱われていました。ドイツの女の子の憧れの動物ナンバーワンが馬で、少女向けの「ウマ雑誌」が多数あるそうです。事件の中心となった乗馬クラブにたくさんの女性客が居たことに納得しました。