壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

少年/単独飛行  ロアルド・ダール

少年/単独飛行  ロアルド・ダール

永井淳 訳 早川書房  電子書籍

ロアルド・ダールの自伝を二冊。『少年』は長い間本棚にあったのだが、蔵書処分で手放している。『単独飛行』は未読だった。電子書籍がお手頃価格になっていたので、懐かしさで二冊とも手に入れた。『少年』はダールがパブリックスクールを卒業するまで、『単独飛行』は就職後に空軍に志願し戦闘機のパイロットとして過酷な戦争を生き抜くまでを描いている。どちらも晩年に書かれた自伝だが、若き日の鮮明な記憶に驚く。どのエピソードも印象的だ。

ダールの両親はノルウエーから英国に移住しビジネスに成功して、ロアルド少年は裕福に暮らしたらしいが、比較的早くに父親を亡くしている。事故で片腕を失った父親、シングルマザーになっても逞しく子供たちを育てた母親に対する愛情が感じられた。少年時代の男の子らしい冒険やいたずらがユーモアたっぷりに描かれているが、学校での体罰の厳しさにはびっくりする。権威をもった大人たちの理不尽な暴力はこんなに酷かったのか。ダールは怒りの感情をあらわには表現していないけれど、学校教育に対する反抗心は強かったのだろう。パブリックスクールを卒業した後、大学には行かずに石油会社(シェル)に就職し、アフリカでの駐在を希望した。

アフリカでの生活では、とんでもなく面白い、というか可笑しい人たちが出てくる。自伝というより短編小説のようだが、実話らしい。イギリス空軍に志願して訓練半ばで実戦に参加し、中東やギリシャでドイツ空軍と空中戦を数多く戦っている。仲間のパイロットたちが次々に命を落とす中で、重傷を負いながらも戦闘機に乗り続けるダールは、国家に対する忠誠心や愛国心を語ることはないが、自分のすべき任務に対しては強い意志で成し遂げる。頭部外傷の後遺症で戦闘機に乗れなくなって、ダールはやっと英国で待っている母親の腕の中に帰っていく。

『飛行士たちの話』という処女短編集があるらしい。廉価で電子化されているので今度読もう。