壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ああ、ウィリアム!  エリザベス・ストラウト

ああ、ウィリアム!  エリザベス・ストラウト

小川高義訳 早川書房   図書館本

作家であるルーシー・バートンは二番目の夫を亡くしたが、前夫ウィリアムとの友人関係はそのままだ。ウィリアムの亡き母キャサリンの秘密を知ったウィリアムは、母の故郷であるメイン州へ同行することをルーシーに頼む。ルーシーの現在と過去の回想は、子供時代の貧困のなかでの母親との関係、義母キャサリンとの思い出、離婚、結婚、娘たちとの関係などを行ったり来たりする。どのエピソードも印象的で、会話文のような平易な文章で描かれる人物像が巧みなので、たくさん欠点を持っているごく普通の人びとに対する愛おしさが湧き上がってくる。

さらに、作中でルーシーが書いた回想録が、エリザベス・ストラウトの『ルーシー・バートン』と重なってきて、不思議な感じにおそわれる。自伝的小説なのか、メタフィクションなのか、どちらでもないのか、少々混乱する。

本書は『私の名前はルーシー・バートン』の続編と思っていたら、『何があってもおかしくない』を読み飛ばしていた。しかし、ストラウトの物語は過去と現在を縦横無尽に行き来して断片的に語られるので、順番にはこだわらないでおこう。

訳者のあとがきによれば、コロナ下の続編(Lucy by the Sea)があるらしい。さらに、Amazonで探すと夏に出版される予定の本(原書Tell Me Everything)では、ルーシーがバージェス家オリーヴ・キタリッジと邂逅を果たすらしい。すごく楽しみ! 小川さんお願いします。