壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

火星年代記  レイ・ブラッドベリ

火星年代記〔新版〕  レイ・ブラッドベリ

小笠原豊樹訳 ハヤカワ文庫SF 電子書籍

私的火星シリーズでSFを読むにあたって、欠かせないのが『火星年代記』です。1950年に出版されていますが、私が読んだのは1960年代でした。中学生の頃か……あまりにも大昔の事なので、内容はほとんど覚えていません。

ブラッドベリ本人による〔新版〕が、エピソードを一部入れ替え、年代設定を30年ほど繰り下げて、1997年に出されています。抒情的で幻想的な26編のエピソードからなるオムニバス風の物語なのに鋭い風刺もあって、これこそブラッドベリという感じです。

あらすじを書いてもあまり意味がないのですが、また忘れそうなので、書きとどめておきます。

 

三回の火星探検隊が火星人たちに受け入れられず失敗に終わった。しかし地球人が持ち込んだ疫病によって火星人は絶滅してしまう。火星に大挙して移民した地球人は、地球での暮らしをそのまま持ち込み、精神性を重視した火星の文明を顧みることもない。その後、地球で核戦争が起き、ほとんどの地球人は地球に戻ってしまう。壊滅的な破壊を被った地球から、生き残りの家族が火星にやって来る。彼らが新たな火星人になるのだろうか。

 

〔旧版〕では1999年、〔新版〕では2030年に火星へロケットが飛び、最後のエピソードが〔旧版〕では2026年、〔新版〕では2057年に設定されているので、どちらも現実的な年代設定ではありません。サイエンスという要素も全くと言っていいほど入っていません。だからこそかもしれませんが、新大陸に入り込んで移民の国を作り上げ、多様性を排除し、核戦争の脅威をもたらしている人間たちへの疑問を強く感じます。しかしそれ以上に、神話的な美と静謐さが作品全体を覆っているようです。地球と火星の文明のどちらもが荒廃した後、どういう未来があるのでしょうか。