壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

潜水鐘に乗って  ルーシー・ウッド

潜水鐘に乗って  ルーシー・ウッド

木下淳子訳   東京創元社   図書館本

コーンウォールは神話や民間伝承の豊かなケルトの土地だそうだ。古代から棲む精霊や巨人、人魚などが、現代のコーンウォールの人々の日常生活と交差している。人々の物語は現実のリアルな感情の上に描かれている。孤独、不安、病魔、カップルの齟齬、家族との行き違いなど。そこに霊的なものが紛れ込んで、温かいユーモアのある味わい深い物語になっているように思った。伝承を知らないのではっきりととらえる事の出来ない話もあるが、想像をめぐらす余地はいくらでもある。

 

不思議過ぎて、あらすじは書けないのでメモだけ。原題の方が内容に沿っているものがある。

「潜水鐘に乗って」Diving Belles
  48年前に海で消息を絶った夫を探しに潜水鐘に乗ったアイリスが、海底で出会ったものは…。

「石の乙女たち」Countless Stones
  身体が石化する予感に、家の整理をして準備したいリタ。でもダニーは新しい家に引っ越したい。

「緑のこびと」Of Mothers and Little People
  一人暮らしの母親の家に帰ってきた娘。出ていった父親は新しい相手を連れてきたが、母親は動じない。

「窓辺の灯り」Lights in Other People’s Houses
  マディとラッセルの家に難破船荒らしの男が住みついた。昔の思い出を捨てられないマディ。

カササギ」Magpies
  男が昔の恋人に会ってきた夜、カササギは何かを囁く。

「巨人の墓場」The Giant’s Boneyard
  まだ小柄な少年の亡き父は巨人だった。成長に揺れ動く少年の心が描かれる。

「浜辺にて」Beachcombing
  家を出て海岸の洞窟で一人暮らす祖母と、少年の物語。海岸で打ち上げられた漂流物を探すことを、ビーチコーミングという。

「精霊たちの家」Notes from the House Spirits
  精霊たちはずっと長い間、家を見守っている、入れ替わる居住者たちを見つめて。

「願いがかなう木」The Wishing Tree
  母ジューンと娘テッサの関係が変化する過程が興味深い。

「ミセス・ティボリ」Blue Moon
  老人ホーム〈ブルームーン〉には、他の施設に入所できないような高齢者がいる。魔女だって歳をとる。いや歳をとって魔女になったのか。

「魔犬(ウィシット)」Wisht 
  父親と暮らす少女。彼女は大きな花崗岩の荒野に魔犬の遠吠えを聞いた。

語り部(ドロール・テラー)の物語」Some Drolls Are Like That and Some Are Like This
  観光客相手に昔の話を思い出せない語り部。でも海岸や鉱山跡をめぐるうちに、物語を取り戻していく。

 

コーンウォールと言えば、デュ・モーリアの小説(『原野の館』『レイチェル』など)を思い出す。ケイト・モートンの『湖畔荘』もここが舞台だった。ミステリアスな場所なのだろう、隣のデボンにあるダートムーアには『バスカヴィル家の犬』もいる。