壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

アルテミス  アンディ・ウィアー

アルテミス(上・下)  アンディ・ウィアー

小野田和子訳 ハヤカワ文庫SF 電子書籍

火星の人』の面白さにつられて、アンディ・ウィアーの第二作『アルテミス』を読んだ。(半額セールにもつられた。)

舞台は月面の都市アルテミスは、建設されて間もない。五つの居住区ドームから成るアルテミスが、どういう経緯で建設されたかが、なかなか面白い。主な産業は観光で、富裕層の観光客がやって来る。

一人語りの主人公はサウジアラビア生まれの26歳の女性ジャスミン。六歳から月で暮らし、溶接工の父の仕込みで、オールラウンドの技術力と優秀な頭脳を持ち、人気者だが、飽きっぽいのが玉に瑕。運送業(ポーター)と裏稼業の密輸で暮らしているが、彼女はどうしてもお金が欲しい。

高額な報酬と引き換えに、実業家に危険な破壊工作を頼まれる。悪事ではあるが不可能に近いミッションを遂行できるかと思いきや、次々と問題発生で、手に汗握る展開になる。

とりあえず手に入る物を使って、機械を改造して行くあたりは『火星の人』と同じ展開で、女性が主人公という点は異なっても、語り口は火星のマーク・ワトニーと同じように、饒舌でユーモアたっぷり。第二作目としては意外性がないが、それでも面白くて、一気に読み切った。

 

ストーリー以上に月面トリビアが面白い。

●アルテミスのドーム内の大気は、100%酸素である。でも気圧を地球の20%にしてあるので、同等の酸素分圧になっている。つまり、お湯がぬるい。
●カルシウム、アルミニウム、ケイ素、酸素の化合物である灰長石(月の石)から、電気分解でそれぞれの元素の単体を取り出している。アルミニウムは建築材料、ケイ素はガラスの材料、酸素はドーム内の気体として不可欠だ。さらに炭素電極からの二酸化炭素で藻を栽培して、貧乏人の食料にしている。電力源は核反応。

♪アルミニウムの精錬で多量の二酸化炭素が出る現行の方法が改善されるといいのにね。
●月の重力下での妊娠はNG。胎児や乳幼児の骨や筋肉の発達に害がある。
●アルテミスは国ではなくケニアの企業が建設したもので、国家ではなく、自由都市である。移住民が出身国ごとに同じ職業に就く傾向は、月に限らない。
●アルテミスで重大な罪を犯すと、犯人は被害者の出身国に移送されて、復讐を受ける。