壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

プロジェクト・ヘイル・メアリー   アンディ・ウィアー

プロジェクト・ヘイル・メアリー(上・下)   アンディ・ウィアー

小野田和子訳 早川書房  電子書籍

アンディ・ウィアーの三作目。面白かったので,映画化されたらぜひ見たい。

太陽エネルギーが指数関数的に減少して,地球があっという間に氷河期になるという観測がなされた。その原因がなんとアストロファージという生物。宇宙全体がその生物に感染しているのというのだ。しかしタウ・セチという星系だけは感染していない。その原因を突き止めて地球を救うべく,十二光年離れた深宇宙へ向かうというのが,「ヘイル・メアリー」という,片道切符の国際的プロジェクトだ。

現実離れしたSF設定が満載なのだが,宇宙一人ぼっちで手元にある材料でDIYしながらミッションを果たしていく主人公は『火星の人』と同じだ。次々に起きる意外な展開を,科学的な推論と実験で乗り切っていくのがとても楽しい。希望と絶望の間を行ったり来たりして,ハラハラドキドキの連続でした。最後の最後まで油断できない! 地球を救えるのか? 主人公は帰還できるのか?

 

以下は多少ネタバレですが,

・宇宙での現在の物語と,記憶喪失の主人公が地球上での出来事を思い出した過去の物語が同時進行していく構成は,退屈せずに長い物語を引っ張っていく力となっていました。

・地球外知的生命体とのファースト・コンタクトが面白い。知覚の全く違う者同士が意思を疎通して,友情まで育んでいく様子は感動ものでした。この物語のメインテーマです。ロッキーかわいい!

・アストロファージもタウメーバもロッキーも人類も,同じ生命の起源をもつというパンスペルミア説についてもう少し突っ込んでほしかったけれど,SF設定をそのままにしておいたほうが楽しいかも。電磁波の全波長を吸収し,質量変換して細胞内にためこみ,さらに星間航行するためのエネルギーにするという突拍子もないアストロファージが細胞や細胞小器官をもっているなんて…

・地球外生命体とのファースト・コンタクトものはSFに多いが,ワースト・コンタクトで思い出したものがあります。筒井康隆の『最悪の接触(ワースト・コンタクト)』。