大仏ホテルの幽霊 カン・ファギル
小山内園子訳 白水社エクス・リブリス 図書館本
《韓国社会の〝恨〟を描くゴシックスリラー》だという。出版されたばかりだからネタバレなしでいきたい。
三部構成の枠部分(第一部)は、怨恨のようなものにとり憑かれて小説を書くことができなくなった作家の独白から始まる。
中味の第二部がゴシックスリラーで、作家の友人が祖母から聞いた物語を、ある若い女性を視点に据えて語り直したものだ。仁川にあったという大仏ホテルでの出来事は、韓国の戦後史を重く抱え込んでいる。哀しみや悪意や恨みに縁どられた史実と虚構が入り乱れ、語り手も登場人物も信用できない。スリラーは面白く、ミステリ要素は一応の解決を見ているが、納得はいかない。
現在の作家の独白に戻った後枠の第三部で、作家の感情が変化してきたことに、何か納得できるものがあった。
第二部で出てくるアメリカの女性作家の『The Haunting of Hill House』(丘の屋敷)は、本書の題名『The Haunting of Daebul Hotel』に重なる。『丘の屋敷』は未読なのが残念だった。もう一つ取り上げられる『Wuthering Heights』(嵐が丘)も、50年以上前の記憶によれば、怨恨と復讐と愛の物語だったように思う。
第二部の語り手ヨンヒョンは朝鮮戦争で蹂躙された月尾島(ウォルミド)の出身だ。朝鮮戦争で半島全土が戦場となり多くの民間人が犠牲になったことを詳しくは知らない。学校で習った歴史で朝鮮戦争による戦争特需で日本経済が上向いたと聞いたが、隣国の戦争で儲かるというのがなんだかひどい話だ、と昔思った。ちゃんと本を読もう。