壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

火星のオデッセイ/夢の谷  スタンリー・G・ワインボウム

火星のオデッセイ スタンリー・G・ワインボウム

大山優訳 グーテンベルグ21 電子書籍

夢の谷  スタンリイ・G・ワインバウム

奥増夫訳  青空文庫

私的火星シリーズでSFを読んでいます。ワインボウムの二作品は1934年に出版された短編SFです。ワインボウム自身は翌年に33歳で亡くなっています。

火星や火星人を題材にしたクラシックな小説はH・G・ウエルズの『宇宙戦争』、E・R・バロウズの『火星のプリンセス』が有名です。ワインボウムの『火星のオデッセイ』を知りませんでしたが、電子書籍を探していてたまたま見つけました。アシモフに絶賛された作品で、当時(1930年代)の科学的な知識に則って描かれているそうです。ファーストコンタクト物で、現在読めば古臭いSFにも感じますが、これ以降のSF小説のタネのようなものが散見されました。表現も平易で、ユーモアSFともいえる楽しい作品でした。

 

火星探検隊の四人は、アメリカ人の隊長兼天文学者と化学者のディック・ジャーヴィス、フランス人の生物学者、ドイツ人のエンジニアです。ジャーヴィスが予備ロケットで単独遠征に向かって不時着し、徒歩で母船に帰ってくるまでに、火星の生物たちに出会います。延々と岩石のピラミッド(排泄物)を作り続けることにより生存している珪素系生物、各人の心の中の幻影を見せておびき寄せ捕食する触手生物、太陽熱発電を担っているらしいビヤ樽生物などです。

『火星のオデッセイ』では、触手生物に襲われていたダチョウに似た火星生物を助けたジャーヴィスは、その火星生物が知的生命体であることを認識し意思疎通を図りますが、果たせませんでした。でも彼ら二人は一緒に砂漠を旅して、なんとなく友情のようなものを互いに持ち始めます。「トゥウィール」と「ディック」と呼び合っています。

続編『夢の谷』では、ジャーヴィス生物学者リロイが予備ロケットで大事なフィルムを回収に出かける事になり、火星生物「トゥウィール」と再会し、彼らの街を見せてもらいました。彼らは古代エジプトのトート神と関係があるらしいこと、かつては高度な文明を持っていたけれど、エネルギーを得る手段が少ないため、今は衰退しつつあるらしいことが分かってきました。ジャーヴィスは火星を出発する間際に、かつて不時着した原子力ロケットを贈り物として「トゥウィール」たちに引き渡しています。

惑星シリーズ、衛星シリーズなどワインボウムの作品の多くが、青空文庫にあります。

 

ワインボウムの時代は、太陽系の惑星、衛星しか実際には知られていませんでした。現在は太陽系外の系外惑星が多数発見され、そのいくつかは液体の水が惑星表面に存在する領域(ハビタブルゾーン)にある惑星で、地球外生命体の可能性もあると言います。人類が自分たち以外の知的生命体と出会う日が、いつか来るのでしょうか。

その前に第三次世界大戦が起きないことを願います。現在の世界があまりにもきな臭くて、すでに世界大戦がはじまっているという意見もあるそうです。戦争を避けられない人類って、本当に知的生命体なの?