壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

叔母との旅  グレアム・グリーン

叔母との旅  グレアム・グリーン

小倉多加志訳 早川書房 グレアム・グリーン全集22 電子書籍

前回読んだ『ベルリンは晴れているか』からの連想でたどり着いたグレアム・グリーン。前世紀にずいぶん流行ったらしく、全集が出ていた。電子化されていて、気楽に読めそうな本書を選んでみた。

 

50年以上も前の小説(1969年)なので、あらすじをメモっておく。

第一部:50代前半で銀行の支店長を早期退職し、庭でダリアを育てるだけの平穏な暮らしを選んだヘンリー。母の葬儀で再会したオーガスタ叔母さんに強引に押し切られる形で、ヘンリーは叔母と一緒に、イスタンブールまで旅することになった。叔母さんの話では、ヘンリーの亡くなった母親はヘンリーの実母ではないという。75歳になる叔母は自由奔放で享楽的であり、実直で几帳面なヘンリーは戸惑うばかりだ。しかし叔母の饒舌な語りは、滑稽でどこか怪しく、次第にヘンリーを魅了していく。叔母のスーツケースには札束がぎっしり、金塊は蝋燭に細工されている。叔母はこの旅で、昔の恋人に再会するつもりだったらしい。二人は警察に国外退去を命じられいったんは帰国するが、叔母はいつの間にか行方不明になり、しばらくして国際警察が、叔母の部屋を捜索したいとヘンリーを訪れた。

第二部:半年も過ぎた頃、叔母からヘンリーに連絡があり、叔母の借りている部屋を引き払って、ブエノスアイレスまで会いに来て欲しいという。ヘンリーがブエノスアイレスに着くと、さらにパラグアイへの船旅を命じられ、パラグアイで、昔の恋人である八十過ぎのヴィスコンティと暮らす叔母に再会する。ヴィスコンティは警察に追われる身だったが、オーガスタ叔母の働きでそれを逃れ、二人は結婚して、怪しげな貿易会社を営むらしい。事件に巻き込まれ留置場に入れられたヘンリー、その頃には彼はイギリスでの平穏な暮らしに戻る気がなくなり、叔母たちの会社を手伝うというスリリングな生活を選ぶ。

 

饒舌な叔母の話には一貫性が無いのだが、面白くてついうっかり丸め込まれてしまう。道徳的で平穏な暮らししか考えられなかったヘンリーだが、叔母の奔放さに影響されて次第に価値観が変わっていく様子がとても興味深い。CIAのスパイも出てくるが、英国独特のユーモアに溢れている。ヘンリーの実母は誰なのか…はっきりとは書かれていないが、どうも彼女ではないかと…。息子?を悪の道に引き込んでしまうオーガスタだが、憎めないキャラクターとして描かれている。72歳の私としては、オーガスタには全く共感できないが…。 グレアム・グリーンの他の作品もそのうち読んでみよう。