壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

哀惜  アン・クリーヴス

哀惜  アン・クリーヴス

ハヤカワ・ミステリ文庫  電子書籍

アン・クリーヴスの新シリーズ第一作。アン・クリーヴスの小説は初読みですが、ドラマ化された作品「ヴェラ・スタンポープ」シリーズを現在視聴中です。荒野の続くノーサンバーランドを舞台にしたドラマが素晴らしく良かったのですが、残念ながら小説は未翻訳。その代わりに、この「警部マシュー・ヴェン」の新シリーズを読み始めることにしました。

舞台はイングランド南西部のノース・デヴォン、鄙びた海岸で発見された遺体の身元は聞き込みによってサイモン・ウォールデンだと判明したのですが、彼の人物像が今一つはっきりしません。アルコール依存症のホームレスというはずだったサイモンの、隠されていた過去が明らかになっていく経緯が物語を牽引していきます。もう一方、地域のケアセンターに通うダウン症の女性の行方不明事件が絡んで、最後に事件の全体像が一気に明らかになる所が見事でした。

警部マシュー・ヴェンはジョナサンという男性と同性婚をして、一緒に暮らしています。また、マシューは原理主義的なキリスト教信者である両親の元で育った後、そのコミュニティを捨てて家族と疎遠になっています。そういう背景をもったマシューは、几帳面で繊細な好ましい人物として描かれています。事件の根本にある権威主義的なマチズモと、社会的弱者との対比が巧みに書かれ、エンターテインメントに流れない、品のあるミステリでした。

シリアルキラーサイコパスといった都市型犯罪ではなく、田舎の小さなコミュニティで起きる人間関係の濃密な事件は、クリスティの世界の延長にあるようです。

クリーヴスの他のシリーズに「シェトランド」があります。ドラマ化されていて、一部視聴しました。ノルウェーに近い島が舞台で、暗くて美しい自然に魅了されてしまいました。文庫本を手に入れてあるので、そのうち読みます。