壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

十三の物語 スティーヴン・ミルハウザー

十三の物語 スティーヴン・ミルハウザー

柴田元幸訳   白水社  図書館本

読み逃していたミスハウザーの2008年の短編集。ミルハウザーを読むたびに、その濃密な世界に驚き、沼に足を取られて引きずり込まれる。奇想天外な幻想の世界を描き続けるという意味では“ぶれない”が、奇想は常に新鮮だ。

精緻に過剰に、微に入り細に入って語り尽くされる日常が、何かの衝動に動かされ、現実を突き抜けて留まるところを知らずに進行していく。緻密さと冗長さに不安になりながら、あり得ないような結末にたどり着いたときに、もう一つ先にある世界が見えてくる。疲れ果てたその先に、奇妙な解放感がある。

ミルハウザーをたくさん読んだような気がしていたが、短編集を四冊読んだきりだった(『ナイフ投げ師』『バーナム博物館』『ホーム・ラン』『夜の声』)。読むのに気力と視力が欠かせないので少々疲れてしまった。現在で残り8冊。あとどれくらい読めるだろうか。

 

明日、図書館に返却する前にメモっておこう。4つのテーマがあって分かりやすかった。

◎オープニング漫画 

猫と鼠」 ご存じ『トムとジェリー』だが、思索的にさえ思えるドタバタ。言葉にしてみると、残酷なんだね。

◎消滅芸

イレーン・コールマンの失踪」 高校で一緒だったはずのイレーンをよく思い出せない。彼女を見もしない、思い出しもしない私たちは失踪の共謀者なのか。罪悪感が漂う。

屋根裏部屋」 友人の妹に暗闇の屋根裏部屋で出会うが、実在するのだろうか。青春の壊れやすさが切ない。

危険な笑い」 ティーンエイジャーの間で流行っている〈笑いパーティ〉が過激になり、とうとう犠牲が出た。

ある症状の履歴」 言葉に対する疑いを持ち始めた男は、言語的思考を抹消していく。しゃべらず、言葉を聞かなくなる。そりゃー、奥さん怒るわ。

◎ありえない建築

ザ・ドーム」 一軒の家の周りにドームができて、快適そうだ。ドームの建設は拡大していく。最後は地球全体に?  テラフォーミング

ハラド四世の治世に」 細密細工師の作る調度品はどんどん小型化していく。王に禁止されても、細密化への渇望に止めどがない。もう誰にも見えない…。

もうひとつの町」 わが町の森の向こうにある瓜二つの町は、誰も住んでいないが、細部に至るまでわが町とそっくりに維持されている。憧れちゃう。

」 世代を超えて、高く高く建築され続ける塔の栄枯盛衰。人々の塔への憧れと嫌悪はどこに向かうのか。

◎異端の歴史

ここ歴史協会で」 町の歴史のすべてを記録し、コレクションする博物館。ラクタさえも例外ではない。

流行の変化」 女性ファッションの流行を語る。奇怪に過剰に流行が変化して、また忘れ去られる。これって、現実じゃないの。

映画の先駆者」 視覚の残像を応用するのでもなく、幻灯機を用いるのでもない。それ以外の方法により映画を作り出した男の伝記。描いた絵画が動き出す。動く絵に対する執念は、昨今の映像技術につながっているようだ。

ウェストオレンジの魔術師」 発明王=魔術師の助手の手記。五感を再現する技術のうち、キネトスコープ(視覚)、フォノグラフ(聴覚)に続く、ハプトグラフ(触覚)を作り出そうとする顛末。その先にガストログラフ(味覚)、オドロスコープ(嗅覚)があるらしい。  作れるかも