壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

火星の人類学者  オリヴァー・サックス

火星の人類学者 --脳神経科医と7人の奇妙な患者-- オリヴァー・サックス

吉田利子訳 ハヤカワ文庫NF 電子書籍

人生の終わりに近づき、何回目かの蔵書整理をしています。残り少ない紙の本に決別し、どうしても捨てられない本だけ電子書籍に買い直そうかとも考えますが、年金暮らしではそれもなかなか叶いません。

オリヴァー・サックスの著書は七冊ありました。電子化されているのはそのうち五冊、(半額セール中の)一冊だけ電子書籍を買って読みました。20年以上昔に読んだ本の再読です。内容は変わりませんが、25年前の単行本にあるカラー写真は削除されていました。内容に深く関わる絵画のカラー写真なので残念です。紙の本を捨てられなくなってしまいました。

副題にあるように、サックス自身が出会った7人の患者についてのエッセイですが、7編の短編小説とも思えるくらい、その人生に踏み込んで描かれています。でも「事実は小説より奇なり」です。サックスは、疾病や障害によって脳の高次機能を失いつつも、その状況に適応して自らの身体機能を再構築していく人々に寄り添います。奇妙な症状を医学的に解説するだけでなく、彼らの意識の内側に飛び込んで患者に共感しようという努め、脳の機能から人間とは何かという問題に迫ろうとしています。

大脳性色盲によって色を失った画家、側頭葉の腫瘍により視覚と記憶を失った青年、トゥレット症候群の外科医、幼い頃に視力を失い50歳を過ぎてから視力を取り戻した男性、熱病に侵されたためか驚異的な記憶を持つ画家、サバン症候群の少年、動物学部の教授を務める自閉症の女性。本書の題名『火星の人類学者』は自閉症の女性の言葉で、人間同士の関係性を理解できない彼女は、「火星で異星人を研究している人類学者のような気がする」と言っていました。

 

サックスの未読の著書は、亡くなったころに出された自伝と遺作のエッセイが2冊です。そのうち読みたいと思っています。