双葉社 2019年9月
収容所で生きのびるため同胞に番号を刺青するタトゥー係の男性が、そこで出会った女性との愛を貫く物語。実話をもとにしたフィクションということで、アウシュヴィッツから生還したユダヤ人から聞き取った脚本家が小説を書きました。どんなに過酷な場面も感情を前面に出さず、淡々と抑えた表現であらわされているので、読むのが辛い重たい物語もベストセラーになったようです。絶望の先に希望があることに救われるのです。
差別、偏見、分断、といった不寛容に、戦争という狂気が加わったときの恐怖は計り知れません。恐怖に打ち勝って、不寛容な世界を克服できるのかという人類に突きつけられた課題を、私たちはまだクリアできていないのです。新型コロナへの感染の恐怖が、差別や偏見という不寛容を生み出すことを私たちは今まさに目前にしています。
いくつものホロコーストの物語を読むたびに、人それぞれの物語があることをあらためて思います。ホロコースト関連の今までに記事にした本を思い出しておきます。
『サラの鍵』タチアナ・ド・ロネ』
『ある秘密』フィリップ・グランベール
『あのころはフリードリヒがいた』ハンス・ペーター・リヒター